第413話 洲本での宿泊

今回の宿は山を降りた市街地にある宿に泊まることになった。

海が一望できる見事な宿であった。


前の世界では洲本温泉があり、

今は温泉地としても有名であるが、

洲本温泉は昭和になって開かれた新しい温泉であり、

歴史の古いものではない。

ちか1300メートルまで掘って源泉が発見されたため、

こちらの世界では温泉地ではない。

しかし城下町として見事な街並みが広がっていた。


そして前の世界で淡路島といえば玉ねぎが有名だが、

玉ねぎも最近になって日本に入ってきた野菜であり、

淡路島には1888年(明治21年)にアメリカから輸入されて、

栽培されたのが初めてだと言われている。

これもまた新しい名産なのだ。

しかしこの世界ではすでに世界各地との交流が簡単に行われているため、

淡路島はこの世界でも最大の玉ねぎの産地になっているようだった。


何より淡路島特産といえば海産物である。

御食国みけつくにと呼ばれ、

古くから海産物が有名であった。

淡路島周辺の急流の中で育った鯛は身がしっかり引き締まって、

食べ応えもあって旨味も増している。

はもも同じように有名で鯛と共に縁起のいい魚として人気がある。

そしてなんと言っても一番有名なのがいかなごである。

緑箋たちがいる今の季節はもう旬からずれてしまっていたが、

春のいかなご漁はとても活気がある。

いかなごの釘煮は特に有名で、

これを食べないと春がきたと思えないという人も多い食材である。


そんな鯛や平目が舞い踊るような食事が用意され、

柴右衛門狸たちは今度は踊って緑箋たちを楽しませてくれた。


朱莉はもちろんいい感じにお酒が入ってきた後は、

狸たちと一緒に歌って踊って大活躍だった。

今回は代田もいい気分になったようで、

代田も一緒に踊って、狸たちを肩や頭に乗せて盛り上がっていた。

代田は元々明るい性格だったのが、

ようやく緑箋たちにも慣れてきて、

素直にその姿を見せてくれるようになったようだった。

気を許してくれたようで緑箋も手拍子をしてとても嬉しくなって、

狸踊りを楽しんだ。


柴右衛門狸は緑箋の隣に来た。


「緑箋殿。

此度はありがとうございました」


「みんなで無事に乗り切れてよかったですね」


緑箋は自分の力だけでは何もできなかったことを知っている。

みんなの力が合わさって難曲を乗り切れたことを喜んでいるのだ。


「本来は最後のあの一閃を舞台に入れたかったんですが、

今回は泣く泣く巨人同士の戦いで締めることになって、

誠に申し訳ありません」


柴右衛門狸は本当の最後の攻撃を入れられなかったことを謝罪したかったようだが、

緑箋にとっては好都合だったので、

あのままの方が絶対に迫力のある舞台になると言って、

なんとかその場を凌いでおいた。


食事と踊りは夜深くまで続いた。

大いに楽しんだ緑箋たちは、

淡路島のお土産をたくさんもらって、

眠りについた。


四国淡路長い狸旅が終わろうとしていた。


翌日、朝ごはんを3人で一緒に食べながら話していると、


「二人には申し訳ないんですが、

もし今日他に用事がなくて、このまま帰るのなら、

一つお願いしたいことがあるんです」


そう言って、珍しく、緑箋は自分のお願いを二人に伝えた。

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