第412話 柴右衛門狸の舞台

柴右衛門狸の芝居は「松山狸合戦」。

狸会議で起こった出来事を早速演劇化してしまったようだ。

この世界でも演劇はある意味報道のように、

起きた出来事をすぐに取り入れてお話として見せているようだった。


狸の演目であるので、

登場する有名な狸は狸がそのまま演じているので、

見た目にも可愛い。

そしてその中に3人の人間も登場する。

男性のたか、女性の鈴、男性のだいの3人が、

魔法軍の一員として参加している。

狸たちは有名人なのでそのままで、

六右衛門狸だけは久右衛門きゅうえもんという名前に変更されて、

この辺りはしっかり配慮されているようだ。


舞台は会議の場面から始まって、

終わりかけに久右衛門狸が襲撃してくる。

その会議の中に人間たちがやってきて、

協力して撃退するというお話だ。


朱莉は男性に、緑箋は女性に変更されているが、

朱莉は自分の役の高がでてくると、

手を叩いて叫んで応援していた。

いいお客さんである。


狸の幻術や妖術を上手に使っていて、

大狸会場もしっかり再現し、

会場の破壊の様子も現実と見紛うばかりの迫力で、

観客に迫ってきていた。

そして最終決戦、

がしゃどくろ対巨人の戦いは、

まるで怪獣映画のようなど迫力の戦いを、

舞台で見ることができて、

これだけでもみた甲斐があったと思わされられるほどの出来だった。

ちなみに緑箋の一閃は舞台では再現されず、

巨人ががしゃどくろをそのまま投げ飛ばすという最後だった。

せっかくの巨大な妖怪たちの対決なので、

見せ場はこの二人の対決にしてもらって、

緑箋も大満足だった。

妖術がある分、舞台の迫力はこちらの世界の方がものすごかったと思った。

朱莉に関しては自分が活躍して会場内外で舞台を率いて戦っていたことに、

ものすごく感激していたし、


代田は巨人が金長狸の妖術の巨人だったということにされて、

目立つことがなくなって少しだけホッとしていた。

ただたえにはちょっと活躍してたんだよと伝えたいなと思った。


舞台が終わって最後舞台上に出演狸たちが勢揃いした。

その狸はたったの数十人だったのに驚いた。

数百人単位の戦いに見えていたのだが、

実はそれも妖術だったようだ。

事件からたった数日でこれだけの舞台に仕上げたことにみんなは感動し、

会場は関係者だけだったのに、

大きな拍手に包まれた。


柴右衛門狸は関係者や緑箋たちの反応を見て、

今回の舞台の手応えを感じたようだった。


「皆さん、舞台を観覧してくださってありがとうございます。

まだまだ荒削りではございますが、

これから詳細を詰めまして、さらに良い舞台に仕上げてまいりたいと思います。

そして魔法軍の御三方、今回の作品に関しまして、

寛大な許可を賜りまして誠に御礼申し上げます。

もう少し活躍する場面を増やしてより人気が出るようにいたしますので、

今一度お時間をいただければと思います」


そう言われて緑箋と代田はもうあれくらいで結構ですよと反応したが、

朱莉は黙っていた。

多分お願いしますと言いたかったのをグッと堪えていたのだろう。

こんな機会はなかなかないから仕方がないというところもある。


「さて、それでは本日のお宿にご案内します」


柴右衛門狸がそういうので、

緑箋たちは今夜は洲本に泊まることになった。

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