第411話 柴右衛門狸とのお話

「ようこそ洲本へお越しくださってありがとうございます。

そして此度の狸会議でのご尽力、

本当にありがとうございました」


柴右衛門狸は立ち上がって頭を下げると、

3人と握手を交わした。

ちなみに柴右衛門狸も今は立派な老人の姿に化けている。

わざわざ老人に化けているのは権威を持たせるためなのだろう。


「こちらこそ、お招きいただいてありがとうございます。

会議ではあまりお話しできなかったので、

こういう機会をいただいて感謝します」


朱莉も丁寧に挨拶をする。

元々は狸会議で一度に話を聞く予定ではあったのだが、

ああいうことになり、

結局関西圏の狸とこうやって話すことになってしまった。

旅行と思えば色々なところへ行けるので嬉しいと言えば嬉しいのだが。


朱莉は六右衛門狸の話を柴右衛門狸に伝えると、

柴右衛門狸はそうか言って頷いた。

柴右衛門狸もあの狸たちとは関係が深いのだろう。

思うところはあったようだが、

それを飲み込んだようだった。


柴右衛門狸はこの芝居小屋でやっている芝居について話をしてくれたり、

また大阪に出て芝居を見せていることなども教えてくれた。

柴右衛門狸はこのまま全国を旅芸人として回って、

各地の芝居を見て回るのが夢だという。

この世界の柴右衛門狸も芝居が大好きで、

無事に芝居を楽しめるような状況にあることに、

緑箋は一つだけ伝えた。


「お金は騙さないようにしてください」


「ははは、確かにそうですな。

お金を騙すことは簡単ですが、

私も芝居人の端くれとして、

しっかり見物料は払って勉強させていただいてます」


柴右衛門狸はそう言って笑った。


「ではせっかくなので一芝居楽しんで帰ってください」


柴右衛門狸はそういうと準備に取り掛かった。

緑箋たちは室内の芝居小屋に戻って待っている間、

お茶とお茶菓子をいただいてくつろいだ。


「そういえば淡路島って代田さん関係してますか?」


前の世界では、

ダイダラボッチが比叡山に躓いて、

怒って蹴った穴が琵琶湖になって、

その土が飛んでいって淡路島になったという話がある。

地図上で比べてみると、

確かに琵琶湖と淡路島の形が似ているのだ。


「さあ、そんなこともあったかもしれませんね」


代田は笑った。

おそらく代田には記憶はないのであろう。

嘘か真かわからない方がいいことも世の中にはたくさんある。

そしてダイダラボッチの伝説も世の中にたくさんあるのだ。


「もし本当だったら代田さんが淡路島を作ったってことになるから、

淡路島の英雄みたいなものなのね」


朱莉は一人本気になって感心している。

そういう考えを本気で持てる朱莉が緑箋はとてもいいなと思った。


そうこうしているうちに舞台が整ったようである。

演目は「松山狸合戦」であった。

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