第410話 洲本へ

鳴門の渦潮を堪能した結果、

緑箋たちは淡路島に南淡なんだんの港から上陸することになった。

南淡は前の世界では合併して南あわじ市となっている。

淡路島の南の街である。

すでに朱莉は連絡をつけていたため、

柴右衛門狸のお付きの狸が迎えにきてくれていた。

狸と言っても人間に化けた立派な青年だった。

青年は柴右衛門狸の本拠地である淡路島の東部の洲本まで案内してくれるという。

洲本までは転送で一っ飛び、

着いた先はこれまた洲本城である。


前の世界では、

洲本城は洲本の三熊山に築かれた山城である。

室町時代後期に始めて城が築かれ、

その後何人か城主が代わり、

1585年(天正13年)に賤ケ岳七本槍の脇坂安治が城主になると、

大規模回収が行われ、現在の規模に城になったと言われている。

しかしその後一旦、由良成山城に移転した後に、廃城となるも、

さらに1631年(寛永8年)に城下町ごと洲本に移転する「由良引け」が行われ、

また洲本城が本拠地となるが、

洲本城自体は使われず、山の下の新たな城が建てられた。

それを下の城という(そのままだ)。

というわけで山の上の城というのはほとんど使われておらず、

実のところ天守閣があったという記述は残っていない。


今現在洲本城にある天守は、

1928年(昭和3年)に作られた鉄筋コンクリート製の模擬天守であり、

展望台として利用されていた。

当時の天守とは全く関係のないものである。

しかしこの昭和の天守自体が模擬天守として最古のものであり、

この模擬天守自体が歴史的建築物となってしまった。

阪神淡路大震災後に補修、改修工事が行われ、

その後展望台としての機能は残念ながら失われて、

中に入ることもできなくなってしまった。


という洲本城もこちらの世界では立派にその姿をとどめており、

模擬天守よりも立派な天守が城下を見守っている。

そしてこの洲本城が立っている三熊山こそが、

柴右衛門狸が祀られている場所であり、

柴右衛門狸の本拠地である。

なんと天守の前の広場に柴右衛門狸の祠が建てられている。

しかし柴右衛門狸は普段は城の外の建物に暮らしているという。


緑箋たちは城の中を通り抜けるようにして城の裏手に進み、

城の東、海側の柴右衛門狸の館へ案内された。

館の中は大きな広場になっており、奥には舞台が立っている。

芝居小屋なのだろう。

舞台の脇に小屋があり、その中に案内される。

入り口は小屋のようだったが、

中はさらに大きな建物になっており、

中にも芝居小屋の客席と舞台になっていた。

晴れの日も雨の日も演じられるようにしているのだろう。


舞台の奥へ進むとようやく居住空間が広がっていて、

そこの一室に緑箋たちは通された。


中にはもちろん柴右衛門狸が待っていた。

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