第408話 徳島観光

六右衛門狸たちは、全員に向かって何度も何度も謝り続けた。

金長狸が肩を抱き、もういいからといっても、

六右衛門狸は謝り続けていた。

調査は終わったため六右衛門狸たちは連行されていった。


六右衛門狸のしでかしたことというよりも、

六右衛門狸にあんなことをさせたことへと怒りが向けられ、

魔族に対しての対抗心がより高まることになった。


「朱莉殿、六右衛門狸のしでかしたこと、

こちらからも本当にすまないと思っております。

その上で、わしらの方から嘆願書を出したいと思います」


金長狸はかなりの被害者ではあるのだが、

やはり六右衛門狸のことを気にかけているようだった。

その被害者からの嘆願ということであれば、

情状酌量の余地が増えるかもしれない。


「わかりました。

金長狸さんの嘆願となれば、

無碍にされることはないと思いますので、

そこはご安心ください」


ありがとうございますと、金長狸も頭を下げた。

調査が終わったので、

緑箋たちは金長狸たちに礼を言って次のところへ行こうとする。

しかしもちろん金長狸に止められてしまった。


「このまま帰らせてしまったら、徳島の狸の面目が立ちません。

六右衛門狸にだって怒られちまいます。

せめてお昼だけでも食べてってください」


ある意味懇願のようなお願いをされ、

朱莉もそれを断ることはできないので、

お昼をいただくことになった。


少しだけ時間があったので、

緑箋たちは徳島城を見せてもらった。

緑箋は前の世界では来たことはもちろんなかったが、

現存しているお城を見ることができて感激していた。

侵入しにくくなっているため天守までの道は険しかったが、

登ることができて嬉しかった。

特別に天守へ登ることも許され、

徳島を一望できる天守からの眺望は素晴らしかった。

北側には遠く本州や淡路島も見ることができた。


城を降りて城下町へ行ってお土産を買った。

徳島名産といえば酢橘すだちである。


前の世界でも名産だが、

徳島では江戸時代から作られていたという話が残っている。

貝原篤信が1706年(宝永6年)に書いた「大和本草」に、

「リマン」として紹介されたのは初だとされている。

その後本格的に栽培されるようになったのは昭和30年ごろからだが、

樹齢200年の木も残されている。


この世界でも酢橘は名産のようで、

ポン酢やそのままの果汁としても売っていたが、

朱莉はそんな中、すだち酒をお土産に選んで、

遼香に送ることにした。

まあ嗜む程度でいいだろうと思っていたが、

普通に一升瓶を買っていたので驚いたが、

緑箋はそれを口に出すことはなかった。

ちびちびゆっくり飲むのか、

一気の飲むのかはわからないが、

その時は近くにいないほうがいいかなと緑箋は思った。


お昼になったので、金長狸の部下の狸に案内されて、

豪華な料亭へと足を運ぶ。

案内された部屋にはすでに豪華な刺身や煮物やご飯が並んでいた。


「さあ!お客人!

腹一杯食べていってください!」


緑箋たちは食べきれないと思ったが、

どれも新鮮で美味しくいただけて、

本当に腹がいっぱいになるまで食事を楽しんだ。


そんな中緑箋は一つ知りたいことがあって、

金長狸に尋ねた。


「子泣き爺という妖怪を知っていますか?」

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