第407話 六右衛門狸の涙

閑話休題。


マモンのシジルはゴエティアには載っていない。

ソロモン72柱にマモンはいないからである。

アモン、アマイモンと同一視されることもあるが、

正体は不明である。

ただそのマモンの印章とされる五芒星のようなものを、

六右衛門狸が覚えていたということで、

やはりマモンの関与が濃くなったと言えるだろう。


「なるほど、その布がマモンってやつの印だったってわけだな」


「まあ五芒星に近いものですし、

基本的にシジルなんてものを知ってる人は少ないでしょうから、

六右衛門狸さんが知らないのも無理はありません。

単純にかっこいいからということで使われることもあるでしょうし」


傍で聞いていた代田は、

じゃあなんで緑箋はそんな印章のことを知っているのだろうと思っていたが、

口に出すことはやめておいた。


「悪魔を召喚する時に使うと言われる印ですが、

その悪魔の力を借りるとか行使する時に使うものですから、

その時に六右衛門狸さんを操るのにより効果を発揮するために見せたんでしょう。

何度も言いますが、普通は見たって分かりません。

西洋の人はどうだか分かりませんが、

よっぽど知識がある人じゃなきゃ気がつかないでしょう」


「まあそうなんだろうがなあ」


六右衛門狸はそれでも悔しそうである。


「それで結局その船との取引はどうなったんでしょうか?」


朱莉が聞く。


「今調べさせたんだが、その船の記録だけは残ってねぇようだ。

品物も受け取っちゃいないし、

こちらから金を出した記録もない。

おそらくそのあとは普通に帰ったんだろうな」


「なるほど。

その後の記憶は何かありますか?」


「そのあとは普通に暮らしていたような記憶があるが、

その途中途中で、頭の中にいる別の何かがずっと話しかけてきたような気がしてる。

狸会議を潰せとかいう声だな。

それが具体的になって、

狸会議の時に襲撃するという計画をわしの一味に伝えて行ったみたいだ。

その時にもわしの目を見た後に他の狸たちがおかしくなったらしい。

そういう話が今わしのところにも届いている。

何か上の空で生活してたみたいだな」


「関係者にのみ伝わっていく呪いみたいなものだったんでしょうね」


「そうだ。だから部下たちにはなんの落ち度もないんだ。

やったことは許されねぇが、責任は全てわしにある。

あいつらのことはどうか許してやって欲しい。

それと、あいつらもなるべく傷づけずに、殺さないようにって、

無事に捕まえるようにって、

あんた方が進言してくれたって話を聞いた。

本当にすまねぇ。恩に着る。

わしの命なんてものはいくらでも差し出すが、

あいつらのことは巻き込んでしまったに過ぎねぇ。

あの場面で、あんな対処をしてくれたことは、

いくら感謝しても仕切れねぇよ。

本当にありがとう」


六右衛門狸は男泣きに泣きながら、

机に頭をめり込ます勢いで感謝と懺悔をし続けている。

緑箋と朱莉と代田は顔を見合わせて頷いた。


「そういうことなら、六右衛門狸さんだって利用されただけなんですから。

他の狸たちからは、もしかしたらなかなか理解はされないかもしれませんし、

いちおう、罪は免れないと思いますが、

今回の件はこちらからも伝えておきますから」


朱莉がそう伝えると、

すまねぇすまねぇと六右衛門狸はなかなか頭を上げなかった。

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