第404話 罠を仕掛けられた布

現在の状況を確認したので、

朱莉は、再度六右衛門狸に当時の状況を解説してもらうことにした。


「こちらで取引が行われたんですね」


「そうです。

席は私が朱莉殿の席で、

相手はわしの今いるこの席に座っておったということだ」


「どうでしょうか。

あれから一日経ちましたが、

何か思い出したことなんかはありますか?」


「そうですなあ。

あの時は確か、布とか反とか糸とかを買い付けていたはずなんだが、

考えてみるとあの後商談が成立したかは覚えておらなんだ。

品物自体は部下に確認させたのと、

ここの上で一部を見せてもらって確認したんだが、

みた感じは悪いものじゃないという印象だな」


「見せてもらったのは布ですか?糸ですか?」


「ああ、確かあれは……。

丸まった反物自体と、

確か製品になった四角い布、

手拭いみたいな感じの布を見せてもらった気がするな」


「もしかしたらその後に、記憶がなくなったんじゃないでしょうか?」


「ああ確かに、確かにおっしゃるとおりだ。

わしは向こうの品物を見ながら感想を喋っていたんだ……。

その後相手の目を見た時に、

相手の目が光った気がして、

その後のことがわからなくなってしまったようだ。

そうだ、あの布を見て、相手の目を見た後の記憶がなくなっておる。

しかも相手の目の記憶はあるが、

相手の顔の記憶はなくなっておる。

男というのは覚えているんだが、

顔はもやにかかってしまったようになって、

思い出すことができない」


「なるほど、やはりそうですか。

おそらく、その布が鍵ですね。

向こうの魔術の肝はその布でしょう。

あらかじめ魔術が込められた呪物でしょう。

魔法陣のような効果があったのかと思います。

ある意味直接マモンの呪いがかかったという感じかもしれませんね」


「あの布にそんな効果が……。

布の模様までは思い出せないが、

確かに触った瞬間におかしな感じがしたのは確かだ」


「みるだけでは難しくとも、

触らせるというのはかなり効果的ですね。

特にそういう商談では警戒されないでしょうし」


朱莉はこのことについて即座に周知させるようにと調査員に伝えた。


「じゃあ緑箋君頼めるかな?」


「わかりました。

六右衛門狸さん。

あなたが覚えていないと思っている記憶は、

脳に残っている可能性があります」


「それはそうかもしれない。

だが思い出せないのだよ」


「それが魔族の魔法であるならば、

もしかしたら回復させることができるかもしれません。

ただそれを思い出した時に、

六右衛門狸さんにどんな作用が出るかというのがわからないのです。

強烈に思い出したくない記憶があるかもしれませんし、

思い出してしまった後に、

自責の念に駆られることがあるかもしれません」


「そうか。わかった。

すぐやってくれ」


六右衛門狸は即答した。


「おい六右衛門狸、本当にいいのか。

何があるかわからないんだぞ」


金長狸はあんなことがあった後も、六右衛門狸を心配しているのだ。


「金長狸よ。ありがとう。

だがわしができることはなんでもやらなと気が済まないのだよ。

さあ、緑箋殿。思いっきりやってくれ」


「六右衛門狸……。」


「わかりました。

では、時間がもったいないので、やらせていただきます」


緑箋は目を閉じると、

夢寝母主念むねもしゅねんと呪文を唱えた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る