第403話 魔族の痕跡

徳島城は吉野川の河口付近の支流にの川に囲まれた中洲の、

小高い山に建てられた城である。

西には眉山の姿も美しい。

その眉山の緑泥片岩を利用した青い石垣が見事にその存在感を際立たせている。


前の世界ではすでに徳島城は取り壊されていて存在していない。

元々は頂上付近に天守があったようだが、

それは取り壊されて、

中腹の二の丸にの御三階櫓が建てられて天守の役割を担っていたと考えられている。

その後徳島城は明治の廃城令によって取り壊された。

この時に松山城も取り壊されることになっていたのだが、

それを回避したのは前に書いた通りである。


徳島城はこの時、鷲之門だけを残して全て取り壊されていたが、

この鷲之門も空襲によって焼け落ちてしまい、

徳島城の建物はすべてなくなってしまった。


しかし1989年(平成元年)に鷲之門は復元され、

今その姿を見ることができるようになっている。


この世界ではまだ城はその美しい姿を残している。


「この徳島城と眉山を見ると帰ってきたなと思いますな」


金長狸の故郷である。

そう思うのが当たり前なのだろう。

いつも目の前にある山。

少し離れてその存在感にまた気がつくのだろう。


徳島は川がたくさんの中州を作っていて、

まるで島が集まっているような場所である。

金長狸たちの案内で城に程近い港へと案内された。


淡路や大阪、そして和歌山へも近いので、

かなり整備された港になっている。

その中の建物に案内されて中に入ると、

六右衛門狸と魔法軍の調査員が待っていた。

六右衛門狸は特に捕縛されているような状態ではなく、

怪我もしっかり治療されているようだった。


「おお、こんなところまですまねえな、

よく来てくださった。

ともかく、この度は本当に申し訳なかった。

重ね重ねお詫び申し上げる。

金長狸も本当にすまなかった」


六右衛門狸は頭を下げる。

朱莉は頭を上げるようにいうと、

六右衛門狸に当時の状況を説明してもらう。


「ここが取引が行われた現場ということですね」


「そうだ。船はあっちだが、

向こうとの取引は、この部屋でやったんだ」


朱莉はなるほどというと、

港での調査についての報告書を確認した。


「まだ確定判定は出ておりませんが、

明らかに魔族の魔力が残存しているのがわかります。

ただマモンそのものの魔力かどうかというのはまだわかりません。

今現在の状況では、マモンが施した何かの呪物によって、

操られたという可能性が高いです。

流石のマモンも直接ここまで出向くというのは難しかったのではないかと」


「そうでしょうね。。

それで他に魔族の痕跡はありましたか?」


「一応こちらの作業員たちの確認や他の建物の確認もしておりますが、

魔族の反応は出ておりません。

今現在こちらの中に潜伏しているというのは考えにくいと思います。

やはり船員だけだったと考えるのが妥当かと思います」


「やっぱりそうですか。ありがとうございます。

じゃあそのまま引き続き調査を続けてください。

何かありましたらすぐ教えてくださいね」


調査員たちは敬礼をすると持ち場へ戻っていった。


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