第401話 無月の成長

様々な魔力を取り込んだ無月は明らかにその力が変化していた。

最後に龗に無月を握らせてみると、

また雰囲気が変わった。


無月が人の魔力を吸って攻撃力が明らかに増すというのはわかっていたのだが、

実のところそれも持ち手によって微妙に変わっているということが、

訓練を続けるたびにわかってきた。


そして人ではないものの魔力を吸った場合、

明らかに刀身の大きさが変えられることがわかった。

代田の力だとみんなは思っていたのだが、

一番変化量が大きいのは龗の魔力を吸わせた時だった。

さらにいうと、

龗と代田の魔力が混ざった時、

さらに大きな変化を与えられることがわかったのだ。

複数の魔力を取り込めば取り込むほど、

無月の効果が現れるということがわかったのだ。


最後攻撃をする前に狸たちの妖力も多数取り込んでおいたのだった。

あの巨大な体にどうやって直接攻撃するのかというのに、

緑箋は結構悩んだのだが、

もしかしたら狸の変化の力を取り込むことによって、

さらに無月の変化が変わるのではないかと思っていたのが、

結果として最後完全にハマったということになる。


そしてもう一つが、

六右衛門狸が魔族に操られているという確証が欲しかったということである。

六右衛門狸を倒すだけであれば、代田だけで事足りたのだが、

それでは結局双方に遺恨を残すだけになり、

双方の被害も増えてしまう。


しかし魔族に操られているのだとしたら、

もしかしたら無月で斬ることで、

魔族の魔力だけを断ち切ることができるのではないかと、

緑箋は考えていた。


外に出て六右衛門狸の近くで魔力を探知することで、

魔族の関与はもう確信に変わっていたのだが、

時間を見極めながら、

しっかり朱莉に確認してもらい、

魔族の魔力と太鼓判を押してもらえたので、

最後緑箋はがしゃどくろだった巨人を斬ることができたのである。


おそらく今までであれば、

ただ騒ぎを起こしたとして、

六右衛門狸は処刑されていたかもしれないが、

今回たまたま魔族特攻の武器を持っていたために、

最悪の結果にはならなかったのは本当に素晴らしいことだった。


その話が終わると、狸たちは拍手喝采、

さらに狸囃子の調子を上げていった。


狸たちは無月に列を作り、

順番に狸の妖力を夢月に注ぎ込んでいった。

この危機を乗り越えられたお礼と、

自分の力も役に立てて欲しいという狸たちの思いが、

無月をさらに大きくしたのかもしれない。


言葉の発せない無月は、

魔力を取り込んで光っているが、

その光はどこか温かみを感じさせるような光だった。

希望の光なのかどうかわからないが、

緑箋は無月が喜んでいるように思えてならなかった。


よくよく考えてみたら、

緑箋の手元に来る前に、

大江山の鬼たちの魔力も含まれていたのかもしれない。

そう考えるとすでにたくさんの経験をしてきている刀なんだなと、

無月を見ながら緑箋は微笑んだ。


代田もすでに打ち解けて、狸たちの子供達を体に乗せて遊んでいる。

朱莉はなんとかまだ自分を保ち続けていた。

緑箋の呪文が効いているからなのかはわからないが、

狸囃子に今すぐ飛び込んで行きたい衝動を隠しながら、

手拍子を打って楽しんでいた。


狸の宴会は夜更けまで続いた。

朱莉は最後ちょっとだけ壇上に上がったが、

今回は落ち込むことはなかったようである。

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