第398話 心の隙間

狸たちといえば狸囃子である。

千葉から参加していた證誠寺の狸たちも、

宴を盛り上げてくれていた。

別に思いっきりお腹を叩き続けなかったら、

それはそれは楽しい狸囃子でみんなは盛り上がれるのだ。


そんな中、

金長狸が緑箋たちのところへやってきた。

緑箋はお酒が飲めないのがわかっているので、

朱莉と代田にお酒を勧める。

朱莉は緑箋の方をそーっと見ながら、

慎重にお酒をいただいている。

そんなに気にしなくてもいいのにと、

緑箋は思っている。

狸囃子に朱莉が参加するのはいつかと少しだけ楽しみにしていた。


そこに隠神刑部たち大物の狸たちもやってきて、

緑箋たちの周りで飲み始める。

本日の主役なので仕方がない。


「それにしても金長狸や。

ものすごい巨人を呼び出して戦ってたじゃないか。

お前の妖術でそんなことができるとは聞いておらんかったが、

いつの間に修行したんじゃ?」


隠神刑部は会場で映像で見ていたので、

あの様子に驚いていたようだった。


「はははは、あれはわしの妖術じゃないですよ。

あれは、代田さんじゃ」


金長狸は代田の肩をポンポンと叩いて笑う。


「なんと、あれは代田殿の魔法だったんか」


「違う違う。代田さんがあの巨人じゃよ」


隠神刑部たちは繁々と代田を眺めると、

確かに面影がそっくりだと、

今更ながらに気がついたようだった。


「そうでしたか、代田さんがあの巨人になったんですか。

それは凄まじい魔力なんですなあ」


代田がダイダラボッチということは別に隠すことではないが、

大っぴらにすることでもないので、

代田は曖昧に笑顔で返答した。

ものすごい魔力なのはそうなのだが、

それは巨人になる魔力ではなく、

小さくなることに使っている魔力なので、

むしろ魔力を解放したという方が正しい。

本気を出したら四国が沈んでしまうかもしれないくらいなので、

その力は計り知れないものがある。


「マモンとやらに操られた六右衛門狸も相当でしたが、

代田さんがいたから、

なんとか守られたというところがありますな。

本当に感謝しております」


狸一堂に感謝されてしまって代田は恐縮しきりである。


「いやいや、たまたま皆さんのお役に立てただけですので、

そんなに畏まらないでください。

みんなの力が集まったおかげですから、

私はその一つの力に過ぎませんよ」


「一つの力って、

あんな力を見せつけられてしまったら、

こっちにいくら力があったって足りませんよ」


狸たちは大笑いした。

上機嫌である。


「マモンというのも大変な力の持ち主なんでしょうなあ」


誰からともなく疑問の言葉が出る。

それに朱莉が応える。


「マモンというのは七つの大罪という魔族の括りの中で、

強欲を司っています。

お話を聞いた限りでは、金長狸さんと以前のいざこざがあったということで、

六右衛門狸さんの心の中にあった自分の地位を守りたいという欲、

もっと大きくなりたいという欲、

そういうものが刺激されてしまったのでしょう。

まあ誰にでもあることです。

私だって強欲から逃れられるかは分かりません」


心の隙間というのは誰にでもあるものである。

そこをしっかりとついてくる魔族の強かさに人間たちがどれだけ抗えるのか、

誰もが同じ立場になったかもしれないと思う出来事であった。

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