第395話 敵の名は

「そんな大物がこんなところに?」


マモンという名前を聞いて狸たちは驚いていた。

日本の狸とはいえ、

魔族と戦うものも多かったため、

魔族の名前はこの世界では広く知れ渡っている。


前の世界で言えば、

マモンは七つの大罪の一人である。

この七つの大罪というのは16世紀のドイツのペーター・ビンスフェルトの著作で、

悪魔との関連づけられた。

比較的新しい考えなのである。

しかしこの考えは瞬く間に世界に広がっていく。

やはりどこの国でもこういう括りに弱いのである。

マモンは強欲の狐に関連づけられている。


マモンというのは元々富とか金とかいう意味で使われていた言葉であり、

それが不正を行った富という意味に変わり、

そういう行為からマモンという言葉が悪魔となったようである。

聖書にも出てくる、かなり歴史を持った悪魔である。


「強欲か……そうか、わしが欲に目が眩んだってことか。

それに金長狸との跡取りの話、

あれはわしの中ではしっかり話をつけたと思っておったんだが、

心のどこかにわだかまりが残っていたのかも知れねぇ。

そこにつけ込まれちまったってぇわけだな。

すまねぇ、金長狸。みんなほんとにすまねぇ」


六右衛門狸は先ほどから頭を床に叩きつけて頭を割らん勢いである。

流石に周りから止められる。

隠神刑部が話をまとめる。


「朱莉どののお話でよくわかりました。

今回の件、すぐに不問にするということはもちろんできないが、

事情はよくわかった。

しかもこれはたまたま六右衛門狸のところに罠が仕掛けられたということだが、

それがいつ他の狸たちに仕掛けられるか、誰もわからない。

今回はそういう不幸が重なったってことだ。

結局、我々も、六右衛門狸も、よくよく考えてみれば、

マモンの術中にハマってしまったってことだ」


すまねぇ、すまねぇと六右衛門狸は泣いて謝り続けている。

この姿を見て、今回の敵の矛先が違うところにあったということが伝わった。


「なあ、六右衛門狸よ。

今回の出来事は不幸な出来事だったが、

それでも死者は出なかったよ。

怪我人は大勢でたが、

それももうみんな回復に向かっておる。

それもこれも、最初に魔法軍の皆さんが、

絶対にお前らを殺すなという話をしてくれたからだ。

解決の糸口が絶対にあると説得してくださったんだ。

我々狸一堂、お前も含めて、このご恩、決して忘れるなよ」


六右衛門狸はもう何も言葉にできずに泣き続けていた。


事態は落ち着き、この後の収集は魔法軍の松山支部に任せることになった。

朱莉と緑箋と代田は思ったよりも早めに解決したこともあるし、

狸たちとの話も難しそうであったし、

それとなくの交流もできたということで、

早めに帰ろうかと思っていたのだが、

それは絶対にダメだと隠神刑部たち一同に説得されてしまった。


「このまま返してしまうのは、我々狸の沽券に関わる!

絶対に泊まっていてくれ」


もはや懇願に近い狸たちに押されて、

結局当初の予定通り泊まっていくことになった。

山を降り、松山城からほど近い、

道後温泉本館になんと特別に泊まることを許されてしまったのだった。



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