第394話 六右衛門狸の記憶

「まさか、そんなことが……」


六右衛門狸はみんなから今、六右衛門狸がしでかしたことを説明された。

みんなの真剣な表情と、

映像も残っているので、

六右衛門狸もみんながいつものように化かそうとして、

冗談を言っているのではないいうことはわかった。


「しかし、信じられねぇ。

だが……。

そうか……すまねぇ。みんな。申し訳ない。

なんと言っていいのかわしにはわからねぇが、

謝るしかねえ」


六右衛門狸はそう言って頭を下げ続け、

みんなの怪我の様子や建物の被害の様子などを聞いたりしていた。


六右衛門狸がいつもの様子に戻っているところを見て、

周りの狸たちも少し安心したが、

先ほどまでの光景が目に焼き付いているわけで、

にわかに六右衛門狸が何も覚えていないということも信じられなかった。


そんな光景を見つめていた朱莉たちは今回の事態について、

今わかっていることを説明することにした。


「では、みなさん。今こちらの方でわかった状況について説明したいと思いますが、

その前に確認したいことがあります。

六右衛門狸さん。お話を伺ってもよろしいでしょうか?」


「ああ、もちろんだ。なんでも聞いてくれ。

わしが話せることはなんでも話す」


「みなさんも疑問に思っていることですが、

先ほどまでの記憶はおありですか?」


「今みんなから話を聞いていて、

何も覚えていないってこたぁないみたいだ。

朧げで霞みたいな記憶が残ってる。

何か巨大なものが戦ってるような記憶はある」


「なるほど。

そうですか。

では一番最近の記憶として覚えていることはなんですか?

今朝の記憶などはありますか?」


「今朝?

そう言われるといつだ……。

一番よく覚えてるのは、そうだな……。

港か……港だな。

港で外国の船と取引をしたんだ。

その時……向こうの人間と握手をして……、

そうだ、握手をしてあの男の目を見た瞬間からの記憶がない。

そこから、わしは今まで何日経ってるのかわからねぇが、

それはついさっきのようにも思えるし、

何年も昔のようにも思える。

あの目を見た後のことは全て霞の中のようだ」


「やはりそうですか。

今何人か六右衛門狸さんの側近の方の話も集まってきてるんですが、

港におられた方は全員六右衛門狸さんと同じ話をしているようです。

もっとも他の方は目を見られただけだという話ですが」


「もしかしたらそいつに操られていたっていうことですか?」


金長狸が朱莉に問いかける。


「おそらくそう思います。

今回六右衛門狸さんたち、特に幹部の方々からは、

魔族の魔力が確認されています。

一番強く残っていたのは六右衛門狸さんです。

直接触れられたのだから、完全に体を掌握されていたと思って間違いないでしょう」


「そうか、あの時のあいつが……。

突然話を持ちかけられてきたんだが、

最初に受け取った商品には全く問題がなかった。

偽物でも化かした商品でもなかったのか確認済みだ。

だから一回目取引を行おうと考えたわけだが、

わしもまだまだ甘かったっていうことだ。

みんなにこんなに迷惑をかけちまうとは、

誠に面目ねぇ」


六右衛門狸は平身低頭、床に頭をめり込ませるように土下座して謝った。


「六右衛門狸、今は頭を上げろ。

それでその魔族ってのは一体誰なのかわかったのかい?」


「はい、残留魔力からの調査の結果、

十中八九、六右衛門狸さんを操った魔族は」


マモンです。朱莉はそう断言した。

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