第393話 一閃の輝き

緑箋は六右衛門狸の巨人の頭上に飛んだ後、

ゆっくりと巨人の目の前を落ちていく。

巨人の手が緑箋を捕まえようと左右から迫ってくる。

しかし緑箋は黒く光る無月を握ったまま、

ぴくりとも動かず、

ゆっくりと落ちていくままに身を任せる。


巨人の顔を過ぎ、

巨人の胸あたりまで落ちてくる。

六右衛門狸の巨人が緑箋を捉えようとした瞬間、

黒い輝きがさらに広がる。


「雲散霧消、斬魔のきらめき


鞘から抜かれた無月は黒く煌めきながら、

その刃は横一閃、空気を切り裂いていく。

刀身は明らかに長く伸びたかと思うと、

鞘に納められる。

そしてさらに落ちてくる緑箋を代田がしっかりと両手で受け止めた。


六右衛門狸の巨人は緑箋を捕まえるその刹那動きが止まり、

今真横に真っ二つになり、

心臓と魔蔵が切り裂かれた。

そして体が崩れるように後ろへ倒れていくと、

六右衛門狸の巨人に取り込まれていた狸たちと、

六右衛門狸がそれぞれ狸の姿へと戻っていった。

六右衛門狸が倒れるとともに、

大狸会場を襲っていた狸たちも力が抜けたように倒れ始め、

一斉に狸たちを捕縛していく。


六右衛門狸もしっかりと生け取りにされ、

金長狸の前に寝かされる。

明らかに魔力を使いすぎた六右衛門狸の姿は生気を失っていた。

六右衛門狸に向かって罵詈雑言を投げかけるような狸たちも大勢いた。

それはそ当たり前である。

被害は少ないとはいえ、

これだけのことをしでかしたのだからただでは済まない。

はずであった。


目の前に横たわっている六右衛門狸を金長狸は見つめると、

胸の前で印を組み、妖術を唱えた。

六右衛門狸が白く光る。


「金長狸様!

回復させるなんて持っての他ですよ!」


金長狸の側近は慌てている。


「話を聞かねばならん。

少し黙っておれ。

六右衛門狸はもう何もする力も残ってはおらん」


金長狸は凄みのある声で側近を静かに一喝する。

代田は緑箋の魔法でまた元の大きさに戻り、

緑箋とともに金長狸の横に来ている。

そこに朱莉が駆けつけてきた。


「緑箋君。

やっぱり想像していた通りだった。

遼香さんの勘はやっぱり鋭いねえ。

私は何度も驚かされているとはいえ、

やっぱりこうやって目の当たりにすると、

やっぱり驚いちゃうよね」


朱莉は素直である。

その話を聞いて緑箋は金長狸と目配せをすると、

金長狸も頷き、

六右衛門狸を側近に運ばせ、

また大狸会場の円形の机に戻ることにした。


外の混乱も落ち着き始め、

六右衛門狸一派は一網打尽となった。

小競り合いの中怪我をする狸たちも多かったが、

適切に回復の治療が施され、

死者は幸いなことにいなかった。

それだけが今回の救いだった。


現状を確認しながら、処置をしていると、

魔法軍の仲間も到着した。

朱莉は適切に指示を行い、

周りを落ち着かせるように動かしていった。


そうしているうちに六右衛門狸が意識を取り戻した。


「おい!六右衛門狸!

お前なんでこんなことをしでかしやがった!」


若い本陣狸が大声で叱責する。


「おいおい、寝起きにうるさすぎるだろうよ、本陣狸。

そもそもなんだってこんなところに、って、

隠神刑部に金長狸?太三郎狸もいるじゃあねえか。

ってお前は団三郎狸?久しぶりじゃあねえか。

喜左衛門狸も、おいおいどうしたみんな揃って!

いてててて、なんだこれは、体が動かねえ」


自分が縛られていること、

そして怪我をしていることに六右衛門狸はようやく気がついた。

周りの狸たちはよく知っている六右衛門狸の様子に、

あっけに取られていた。

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