第391話 がしゃどくろ

「なぜお前がここに!」


六右衛門狸は少し狼狽している。


「理由なんざどうだっていいだろう。

あんたの狙いはわしなんだろう?

だからここまで来てやったんだ。

なんでこんなことを、六右衛門狸!」


「う、うるさい。

こんなところまでのこのこと一人でやってくるたぁ大馬鹿狸め。

余裕をぶっこけるのもここまでだ!

これでも食らえ!」


六右衛門狸は頭に葉っぱを乗っけて胸の前で印を組む。

すると、巨大ながしゃどくろに変化した。


妖怪といえばこのがしゃどくろと言うべき有名な妖怪である。

前の世界ではこのがしゃどくろ、実は昭和になってから創作された妖怪である。

歌川国芳の「相馬の古内裏」に出てくる巨大な骸骨から連想された妖怪であり、

この「相馬の古内裏」の骸骨はがしゃどくろとは関係がない。

山内重昭が書いた、

「世界怪奇スリラー全集2 世界のモンスター」(秋田書店、1968年)

に収録された斎藤守弘による妖怪記事が初出とされ、

その後に世に広まっていった。


民間伝承から生まれた妖怪ではないところが、

今までの妖怪の系譜とは違うところであるが、

誰かの創作が広まって妖怪になるという例は少なくない。

当時の少年少女たちの心だけではなく、

大人たちの心も掴んで離さなかったという、

創作妖怪として世に広まるだけの衝撃を持った妖怪である。


そんな巨大ながしゃどくろが金長狸の目の前に出現している。


「六右衛門狸!

まさかここまでの力を持っているとは驚いた。

こんなに立派な力があるなら、それこそなぜ……」


「うるさい!このまま捻り潰してやるわ!」


六右衛門狸の魔力は以前とは比べ物にならないほど巨大化しているようだった。

狸の妖術というのは基本的には幻想や幻影であり、

実態を伴わないか、伴っても大したことがない、

それこそ子供騙しに近いようなものであり、

例えば今回のようながしゃどくろを出現させたとしても、

見た目で驚かす程度の力しか持っていないはずであった。

しかし今金長狸の目の前にいるがしゃどくろは明らかに実在しており、

金長狸の目の前に巨大な手が振り下ろされる。

やはり明らかに魔力が暴走している。

がしゃどくろは巨大な手を振り下ろしながら、

金長狸へ迫っていく。

金長狸は巧みにその攻撃を交わしながら、横にそれていく。

なるべき会場に近づけないようにがしゃどくろの攻撃を引きつけているのだ。


「せっかくのがしゃどくろの力もそんなものか!」


金長狸が煽るように叫ぶと、

がしゃどくろはうるさいうるさいと叫びながら、

さらに手を振り回して攻撃してくる。

六右衛門狸の怒りで魔力はさらに暴走しているようだった。


がしゃどくろの手がついに金長狸を捉えるべく、

その大きな手が真上に振り下ろされるのを見計らうように、

金長狸はふうと一息つくと、

両手を上に上げて呪文を唱える。


がしゃどくろの巨大な手を、

がしゃどくろよりさらに巨大な手が受け止める。


「貴様!それは!いったい」


がしゃどくろの目の前には、

がしゃどくろよりさらに巨大な巨人が立ち塞がっていた。


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