第390話 一進一退の攻防

どおんどおんと壁に何かが当たる音が聞こえる。


「よしいくぞ、野郎ども!

手筈通りに配置につけ!」


隠神刑部の雄叫びに、周囲の狸たちもおおー声をあげる。

外にぶつかっているのはおそらく火球であろう。

火球は外壁になっている大狸の壁を破壊して崩している。

しかしその中にもまた土壁がしっかりと周りを覆っており、

その土壁は火球如きではびくともしていなかった。

すでに火耐性の魔法もしっかりかけられている。

さらには上の方には壁に穴が開けられていて、

そこから水魔法で放水も行われている。

火災対策は完璧である。


それでもどおんどおんという大ききな攻撃音が会場内に響くので、

中の非戦闘員たちをしっかり落ち着かせながら、

内部を守り抜いている。

入り口はすでに破られているようだったが、

そこも壁に阻まれている。

しかし敵の本命は裏口であり、

裏山からの攻撃は止まることがない。

大きな丸太の串のようなもので壁を攻撃され続けると、

ついに代田の作った土壁も破壊され、

外の様子が直接見られるようになってきた。

そうなると向こうの攻撃の手も激しくなり、

土壁の外の魔法障壁も直接の攻撃によってひび割れして砕けてくる。


ひび割れした穴に向かって朱莉が呪文を唱えると、

何かが飛び出して壁を突き破って出ていく。

ワンワン!と激しい声が響くと、

敵の狸たちがたじろいでいる声が聞こえる。

朱莉は狸の天敵である四国犬を召喚したのだ。

これは今回の切り札の一つであり、

狸たちでは唱えられない呪文である。

四国犬は狼に近い犬種であり、

狸たちを次々の攻撃していく。

多勢に無勢にならないように何匹かの四国犬を召喚し、

壁の外の攻撃を弱めていく。

穴の中で待ち受けながら、

穴から攻撃しようとしてくる狸たちを次々に捕獲していく。

まるで巨大な罠のようである。

犬と穴で攻撃を防ぎ続けていたが、

徐々にその攻撃の穴も大きくなり、

かなりの狸たちとの交戦が始まった。


会場の中に入れまいと防御する味方に対して、

外からの攻撃を続ける敵の狸たち。

一進一退の攻防を続け、

未だ会場の中に敵の侵入を許すことがなかった。

ちょうど穴から攻撃できる敵と味方の数が均衡しており、

なんとか味方の防衛地点が下がることがなかった。

逆に味方がわも外へ攻撃することもできないので、

均衡が取れた防衛戦が動かず、

ギリギリのところで双方の均衡は崩れることができなかった。


裏山の中腹に陣取っていた六右衛門狸は、

思ったよりも戦況が進まないことに苛立ちを隠せずにいた。

伝令を出しながら攻撃の手をやめさせないようにしていたが、

当初の予定よりも攻撃の進行度合いが遅く、

このままでは外部の援軍が到着してしまうと、

焦りを隠せなくなってきた。


「そんなに焦っても仕方がない。

もっとどっしり腰を据えな。

大将だったらな、そんなに焦りを見せるんじゃあない」


六右衛門狸の後ろから声がした。


「偉そうに、誰じゃ!」


六右衛門狸が後ろを振り返ると、

そこには金長狸が睨みを利かせていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る