第388話 襲撃の意図

六右衛門狸が大狸会場の周りを取り囲んでいることはわかったが、

問題は山積みである。

すでに外部との連絡は取れているため、

外からの応援が来るのも時間の問題である。


六右衛門狸たちが今の現状をどのように把握しているのかはわからないが、

着々と何かの準備が行われているようではある。

動きは今の所なく、

何かの様子を伺っているような気配である。

外にいる狸たちはすでに中に退避しており、

その状況をおかしく思う様子は今のところない。

会議が終わりになり、

最後全ての狸たちが集まるという頃がないわけでもないので、

六右衛門狸たちがこの状況を想定していて、

中に全員入った状態で何かを仕掛けるということもあり得る。

危険が迫っていると考えるのが普通である。


「最近はあまり会っていなかったということですが、

六右衛門狸の目的は何か思い当たる節はありますか?」


緑箋は今回の目的の糸口を知りたいと思っている。


「先ほども話した通り、最近の動向はよくわからないんですよね。

同族とはいえ、

今ここにいる狸たちでさえ、

そんなに連絡を取り合うということはありませんから」


金長狸は顎をさすりながら考えているが、

特に何も思い浮かばないようである。

ただ、金長狸が言うように、

同じ狸だからといえど、

別に一緒に仕事をしているわけではなければ、

そんなに頻繁に連絡を取らないと言うのも頷ける話である。


「ただ噂話ですが、

六右衛門狸が最近海の方で何やら取引を行っているのを目撃されておりまして、

羽振が良くなったと言う話は聞いております。

それが一ヶ月くらい前だったかなと」


「それは珍しいことなんでしょうか?」


「そうですなあ。最近では積極的に外との交流をしている狸もおりますし、

我々のように日本に貿易網を作ろうと思っているような狸にとっては、

そんなに珍しいことでもないかもしれません。

ただ六右衛門狸は古い方の狸ですから、

外というよりは中で商売をする方が得意かと思っとります。

まあ新しい事業を開拓しているといわれればそうかとも思いますし。

この辺りは商売ですから、競合することもありますし、

なるべく他のシマを荒らさないというように心がけてはおりますが、

そうならないこともあるっちゃあるわけですから、

我々の方は気にしておりませんでした」


「大勢の狸がこうしてここにやってきているというのも、

今回狸会議が行われるわけですから、

変じゃないわけですね」


「まあそういうことになりますなあ」


大勢の狸が動きやすく、狙いが何にせよ、

全ての狸が一堂に介しているというこの状況が、

敵にとっては一番の好機ということになる。


「金長狸よ、以前揉めていたっていう話は結局どうなったんだ?」


他の狸たちからも質問が飛んでくる。


「まあ確かにわしは六右衛門狸にお世話になって、

その後一悶着あったわけだが、

あれはわしとしては決着がついた話だと思っておるし、

向こうもわかってくれていたんじゃないかと思っているんだがなあ。

その後は良好な関係を築いてきたと思っておったんだが。

もしかしたら、まだ袂を分かった時のことを恨んで負ったんかなあ」


こちらの世界でも六右衛門狸と金長狸には一悶着あったようだ。

ただ殺し合いにはならずに何とかなったようである。

緑箋はおそらく二人の争い自体はその時に解決していたと思っていたのだが、

解決したものを掘り起こした何かがいるのではないかと思い始めていた。

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