第387話 戦闘準備

阿波狸合戦である。

金長狸と六右衛門狸の抗争がここで再現されようとしている。

しかもその規模はその話よりも大きくなっている。


「まさか六右衛門狸がこんなことをするとは、信じられん」


金長狸がつぶやく。


「金長狸さん、六右衛門狸さんは今回の会議に参加予定はなかったんですか?」


「いや、朱莉殿、六右衛門狸も参加予定でした。

体調が悪くなったとかで一門は欠席するという話が昨日ありました」


「一番最近会ったのはいつでしょうか?」


「今年は会ってないから、去年、

去年の秋くらいに町であって挨拶をした程度でしたかね」


「その時は特に変わりはなかったということですね」


「お世話になった間柄ではありますが、

最近はそんなに交流はありませんでした。

シマがかぶることもありませんし、

それぞれの中で問題が起こることもありませんでした」


「ってことは最近の様子は知らないということですね」


「まあそうなります。

しかし六右衛門狸がこんなことをするとはなあ」


「まあまだどういう行動を起こすのかはわかりませんから。

ただ不穏な行動であるのは間違いありません」


代田と緑箋は朱莉が話をつけている間に、

会場の中を補強するように内壁を作っている。

代田の見事な地属性魔法により土の壁が作られ、

その内側に緑箋も魔法障壁が並べられていく。

実はこの二人の連携も毎t日のような訓練の成果であった。

数百メートルにわたって壁を築く訓練を二人で協力して行なっていたのだ。

会場内の狸たちにも今、外が包囲されているという情報が共有される。

多くの狸たちの間で混乱が起こるかとも思われたが、

大明神格の狸たちの直径の弟子たちも多くいたため、

鹿kりと慌てないように声がけをしていくと、

会場内は落ち着きを取り戻し始めていた。


「水魔法が得意な狸はいますか?」


緑箋の問いに水魔法の得意な狸たちが集められた。

狸というのは基本的に火属性魔法が得意であり、

狸火の伝承が多く残っている。

まあこれは不思議な火や火の玉を見かけた人が、

妖怪、つまり四国では狸の仕業であるということになったからであろう。

狸がいなければ狐火ということになるのだ。

そしてなんと言っても一番得意なのは変化の能力である。

人に化ける、鬼や幽霊や大男に化ける、

また葉っぱをお金にするなど、

幻術だけではなく、物に作用させる効果を出すことも可能である。

ただ基本的には驚かすことに特化しており、

化けた後そのものになって攻撃するということにはあまり向かないようである。

そんな中水魔法が得意な狸たちに集まってもらったのは、

外からの攻撃に備えてのことだ。

もし攻撃を受ける場合、

どう考えても周りから火攻めされるのが一番想定されるからである。


さらに緑箋は外の様子を感知しながら、

狸たちに幾つかの作戦を伝えておいた。

狸たちはその作戦に耳を傾けてくれて、

即座に子分に銘じて状況を整えていった。


朱莉も各所に連絡を入れているようで、

人間も狸も着々と準備を進めていった。

緑箋はあたりを索敵しながら、

一際大きな魔力を感じ取った。

その狸の写真を確認してもらう。


「ああ、やっぱり六右衛門狸の野郎です」


金長狸は六右衛門狸の姿を確認してくれた。

六右衛門狸も近くまで出張ってきていて、

大狸会場の裏側の方にいるようだった。

山口霊神の入口の方にも敵の狸は配置されているようだが、

本命は裏側ということになるのだろう。

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