第386話 狸の包囲網

緑箋は呪文を唱えると、光の球を見えないように入り口からいくつか飛ばす。

そして会場の外でその球を細かく分裂させ、

会場の周囲に設置するように置いていく。

すると会場の周囲に大勢の狸がいることがわかる。

この狸会議に参加するためにきた狸はほぼ会場内にいるはずであり、

外には会議を運営する側の狸がいるだけのはずである。

にもかかわらず、会場を囲うようにこれまた1000あまりの狸がいる。


「朱莉さん、代田さん。

この会場は囲まれています。

他の狸の勢力なんでしょうか。

敵の正体まではわかりませんが、

外の狸もできるだけ中に避難させた方がいい。

会場の運営にいうよりも、

円形の机の狸たちに直接いったほうが話は早いでしょう。

確認している時間がありません。

八千代さん、もし知り合いが外にいるのなら、

すぐに中に入るように伝えてもらえますか?

全員の召集がかかってるでも理由はなんでもいいので、

できるだけ早くお願いします。

ただ八千代さんも外には出ないようにしてくださいね。

安全第一です」


緑箋の切羽詰まった言葉に八千代もことの重大さを理解してくれたようで、

すぐに連絡をとり始めた。

その間、朱莉はすぐに前に進んで円形の机の狸たちの方へ話かけに行っていた。

この辺りの行動力の速さはさすがである。

緑箋も代田とともにあかりの後ろを追う。


「会議中申し訳ありません」


朱莉は係のものに止められながらも話しかける。

それを見た隠神刑部が係のものを手で制しながら話しかけてくれた。


「おお。其方は魔法軍の猫高橋殿でしたな。

わざわざ遠いところへご参加ありがとうございます。

何事かございましたか?」


丁寧な口調であるが、その胆力が伝わってくるような低い声が、

隠神刑部の威厳を醸し出している。


「お邪魔して申し訳ありませんが、

この会場、今現在、多数の狸に囲まれております」


「そりゃあそうだろう、

今は日本中の狸がここに集まっているんだから!」


本陣狸は何の冗談を言っているのかというような笑顔を浮かべている。

しかし他の狸たちが険しい顔をしているのを見て、

本陣狸の顔からも笑顔が消えた。

さすがは歴戦の猛者たちである。

朱莉の一言で周囲の状況を肌で感じ取っている。


「まずは外の狸の避難が先決です。

この建物はある程度は持ちますでしょうか?」


八千代の話だと急造の建物であるということで、

朱莉はこの建物に耐久性はそれほど担保されていない気がしていた。

隠神刑部以外の狸は朱莉の忠告に対し、

即動いて、矢継ぎ早にお供の狸たちに指示していた。

朱莉の問いかけには隠神刑部自らが対応することに決めたようだった。


「すでに1000あまりの数に包囲されているようです」


緑箋は今まで敵の位置を探る訓練を行なっていて、

光の球で写真を撮るところまで行けるようになっていた。

その写真を端末に送ることで、写真を共有する。


外で包囲している狸の姿がわかる写真がいくつかあったので、

みんなに確認してもらう。


「この狸たちが来ている服の紋は、六右衛門狸の一味ですな」


金長狸はそう断言した。

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