第385話 大狸会議

狸の話でもうお腹いっぱいだが、

会議はこれから始まる。


狸会議の議題は人間や他の妖怪との共存が一番であるようだ。

すでに人と共存している狸も多くおり、

その狸は人に化けて人と同じような生活を行なっている。

狸といえば変化の術であるが、

この世界では人間も魔法が使えるため、

あまり効果的ではなかったりするので、

人を化かして驚かしたり、偽物のお金を使ったりするというとは少ない。

そのため人間との共存もうまくいっているようだった。

もちろん人間にも悪い奴がいるように、

狸にも悪い奴もいて、いまだにいたずらを行うような狸もいるようだが、

そういう狸には狸からも人間からも警告が出されるようになっているようだ。


今回の狸会議のように、

日本全国に狸の関係は深く繋がっている。

狸というのは元々他を抜くという演技のいい動物とも知られているので、

商売繁盛にとてもいい。

そのため人間に雇用されている狸も多くいるし、

また自分で商店を開いている狸も数多くいる。

その商品のつながりを狸同士で持っていて、

日々新しい商品開発が行われているようだ。

狸の置物もその一環であり、

招き猫と激しい争いを繰り広げられている。


前の世界では狸の置物といえば信楽焼である。

なぜ信楽焼が狸と結びついたのか、

これは有名な話がある。


狸の置物自体はいろんな場所で古くから作られていたようだが、

信楽焼の狸は明治の陶芸家の藤原銕造が初めて作ったと言われている。

それが1951年(昭和26年)の昭和天皇行幸の際に、

日の丸を持たせた狸の置物に感激し、


「をさなき日 あつめしからに なつかしも 信楽焼の 狸をみれば」


という句が報道されて、

全国で有名になったのだそうだ。

昭和天皇が狸の置物を集めていたというのがピッタリと嵌ったわけである。

これまたかなり最近の出来事と言ってもいいことが、

今の定番として広がっているわけである。


そんな狸の商品を色々開発し各店に渡してお土産として売り上げているようだ。

なかなかやはり商売上手である。


また議題は移り狐との関係の話である。

狸と狐というのはかなりお互い意識しているらしく、

狐は狐で稲荷信仰とともに日本全国に勢力を広げている。

狸は間抜けで狐はずる賢いという印象があるが、

それはおそらく両方の顔の印象からなのだろう。

四国や佐渡から狐は追い出されたという話になっているが、

狐自体は日本全国に分布している。

あまり仲良くはないようだが、

別に争っているわけでもないらしい。

種族が違えば生活が違うわけで、

そのあたりの軋轢は仕方がない。

狐も人の世界にしっかりと根を張って生きているようだ。


そうやって意外と和気藹々と会議が進んでいって、

そろそろ会議も終わろうとしていた。


しかし緑箋は大狸会場の和やかな雰囲気とは裏腹に、

会場の周りには不穏な空気が流れ始めていたことに気がついていた。

龗も珍しく目を覚まし、キョロキョロと辺りを見回していた。


緑箋は朱莉と代田に囁いて注意するように伝えた。

外は急に暗くなり、厚い雲が上空を覆い始めていた。

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