第379話 不穏な空気

「まあまあそれはいい。

四国行きが決まったそうだけど、

狸のみんなにもよろしく伝えてくれ」


「遼香さんは狸にも親交があるんですか?」


緑箋は直接疑問をぶつけた。


「まあ、日本一周した時に、四国の狸たちにも世話になったな。

悪戯好きだが、天然ぼけで憎めない奴らだよ。


緑箋は遼香が日本で知らない妖怪がいるのだろうかと思うほど、

各地の妖怪のことを知っていることにいつも感心している。。

基本的に有名どころには会いに行っているのだろうが、

会いに行っているだけではなくて、

拳で語り合ったという方が本命なような気がしている。


「今回は遼香さんはいけないってことなんですね?」


「そうなんだよ。私も久しぶりに会いたいものだが、

残念ながら別件が入っているから今回は私はいけないんだ。

別件の方は幽玄斎と一緒に行くことになるから、

幽玄斎はこちらの方を頼むよ」


わかりましたと幽玄斎は神妙な顔で頷く。

そちらはそちらで重要な任務である。


「狸が一堂に集まるという話なので、

私が知ってる話については後で朱莉にまとめてもらうから、

その資料をもらって読んでくれればいい。

まあそれが必要になるかはわからないが、

朱莉と緑箋君と代田だったら、

別にそんなに畏まることはないと思う。

普段通りに誠実に対応してくれたらいい。

朱莉はお酒には気をつけて」


「もう、意地悪言わないでくださいよ。

私だって反省しているんですから」


緑箋は色々朱莉のお酒の出来事を見てきたからわかるが、

代田と幽玄斎はあまりピンと来なかったようだ。

明るい朱莉がお酒でどうなってしまうのかまだみたことがないから、

想像がついていないのだ。


「緑箋君、説明しなくていいからね」


朱莉は先に緑箋に釘を刺した。


「まあ、仕事が終わったらお酒を飲むのは構わないよ」


「今回は飲みません」


朱莉はプンプンしている。

緑箋は朱莉が本当に飲まないのかは少しだけ疑問に思っている。


「ははは、すまんすまん。

朱莉、そんなに怒らないでくれ」


「大丈夫です。

本気では怒ってませんから。

大体私が蒔いた種ですから。

ちゃんと気をつけます」


「まあ、それはそれとして、

一個だけ四国組に忠告しておきたいことがある。

これは確定情報ではないのだが、

今狸たちの間で不穏な動きがあるらしい」


「不穏な動きですか?」


「今の所詳しくはわからないんだが、

掴んだ情報によると、

今回の狸の集まりで何かが起こりそうな予感がする」


「何かというのは?」


「残念ながらまだそれはわからない。

大規模なものなのか、小規模なものなのか、

単なるイタズラなのか、

それはまだ掴めていないのだが、

そのことを頭の片隅に入れておいて欲しい」


「それって結構曖昧ですよね」


朱莉は正直に聞いた。


「まあそうだな。

ただ全く予想してないよりは少しはマシだと思うから、

君たちの安全を第一に考えて、

さらにもし被害があるようなら、それを防ぐ、もしくは最小限に止める、

それを肝に銘じて行動して欲しい」


「まあ3人の実力なら相当なものでもなければ対処できると思ってるから、

そこは心配していない。

杞憂ならそれが一番だ」


遼香は明るく話をしめたが、

遼香の言葉は現実化するのだ。

緑箋と朱莉と代田は少しだけ気合を入れて気を引き締めた。

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