第373話 太三郎狸と金長狸と阿波狸合戦と

「芝右衛門狸は芸事の神様として淡路島で祀られていて、

今も淡路で楽しく暮らしているんだけど、

あの辺りの狸をまとめている有力者だから、

やっぱり大切な狸なのよね」


朱莉は芝右衛門狸についてそう話した。

芸事の神様である芝右衛門狸だが、

やはり日本三名狸の一人なのである。

大切な狸なのであろう。


「じゃああとは四国と佐渡ということになりますね」


「まあそうなんだけど、

今回は四国の方に重点をおいてもらうことになるかな」


「じゃあ太三郎狸たさぶろうたぬきってことですかね」


四国の妖怪といえば狸と言っても過言がないほど有名である。

香川の屋島の太三郎狸はかなり本格的な狸である。

太三郎狸はなんと鑑真や空海を案内したと言われて、

鑑真が開いたとされる屋島寺の住職と懇意にしていた。

後に平氏の守神としても知られて、

平家の落人を守ったという話もある。

源平合戦で見た様子を幻術で再現するなどの力も持っていたそうだ。

狸をまとめて教育し、最終的に四国狸の総大将になった狸である。

猟師の鉄砲で命を落としたという話もあるが、

江戸時代の阿波狸合戦では調停にはいり争いを終わらせたとか、

日清戦争では多くの子分たちと共に満州へ出征して、

日本を勝利に導いたなんて話もある。

現在は屋島寺で蓑山大明神みのやまだいみょうじんとして祀られている。

神として祀られている立派な狸で、

悪戯好きの狸というよりは狸の総大将の格の高い狸としての話が伝えられている。


「そうだね、一応狸たちの戦争もひと段落ついて時間が経ったし、

その辺りの確認も兼ねてという感じだね」


四国の狸というのもまたたくさんいる。

その中で有名なのが、

太三郎狸たさぶろうたぬき

松山騒動八百八狸物語の隠神刑部いぬがみぎょうぶ

そして阿波狸合戦の金長狸きんちょうたぬきである。

他にも山ほど有名な狸がいるのが四国である。


狸同士の戦いというと阿波狸合戦となる。

天保年間の話だという。

ある日、日開野の大和屋の主人の茂右衛門もえもんが、

助けた狸が店のものについたことによりお店が大繁盛。

話を聞くとその狸の名は金長という。

まだ位がなかった金長は、

津田の六右衛門ろくえもんという狸の総大将のもとに修行に出掛ける。

金長はそこの修行で正一位になりそうなところまで行くと、

六右衛門は自分の娘の鹿ノ子姫かのこひめと結婚させ養子に迎えようとする。

しかし金長は茂右衛門への恩返しもあってそれを断って帰郷する。


このままでは金長が脅威になると考えた六右衛門は、

追っ手を差し向け、それに対して金長も仲間を募って、勝浦川で戦を行った。

これが阿波狸合戦である。

六右衛門は討ち取られるも、金長も深手を負った。

金長は最後の力を振り絞って、日開野へ帰り茂右衛門に礼を伝えると力尽きた。

茂右衛門はそんな金長のために金長神社で正一位金長大明神として祀ることにした。


これまた神になった狸である。

ちなみに先ほども書いたように、

その後も続く争いを太三郎狸が収めたという話があったり、

なんと柴衛門狸がこの阿波狸合戦に参戦しにきたなんて話もある。


こちらの世界ではどちらも命を落とすことなく、

争いが終わったというようである。


「太三郎狸は四国の狸をまとめる狸だから、

これまた大事な狸なんだよね。

しっかりお話を聞いてきてもらいたいと思ってる」


朱莉は少しだけ気持ちを取り戻しながら話をしてくれた。

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