第371話 次に行く先は

「とまあ秘密にしてもいいんだけど、

今回は少し込み入った話になりそうだから、

事前に準備として資料は渡しておこうと思ってます。

その資料は後ですぐに送信するから目を通しておいてね」


「わかりました。

じゃあ資料を確認しますね」


緑箋が簡単に引き下がったので、

朱莉は少しだけ寂しそうに見えた。

朱莉は人を楽しませることが大好きだが、

自分は話したいことを話せないことを我慢するのが得意ではない。

もちろん重要事項について情報を漏らしたりはしないが、

今回の話は別に話してもいいことなようなので、

朱莉はどうしても話がしたくて我慢ならないようだった。


「確かに、何も情報がないと不安になるよね。

もう、仕方がないから、少しだけ手掛かりになる情報を教えてあげましょう」


いや、大丈夫ですよと言いたそうな緑箋を、

朱莉は片手で制して話を続ける。


「今回は一箇所だけではなくて、

複数箇所を回って話を聞いていく形になる予定です。

いろんなところと言っても日本全国を回るとかいうことではなくて、

一つの地方で話を聞いていくという形になるかなと思ってます」


「なるほど、何箇所か回るって感じなんですね。

場所は聞いてもいいんですか?」


「んー場所かー。

場所そのものを言ってもいいんだけど、

今回はある程度の地方で教える形にしようかな。

んーでもどうしようかなー」


朱莉は珍しく悩んでいる。

勿体づけたい気持ちと、

早く話したい気持ちが複雑に朱莉の心を掻き乱しているのかもしれない。

遼香はそんな朱莉をみてニヤニヤしている。

遼香も朱莉の気持ちをよくわかっているのだろう。


「でもあれだね。

多分地域の話をしただけで、

緑箋君、誰に会うかわかっちゃうでしょ?」


「いや別に僕は妖怪博士じゃありませんから、

わからないことはたくさんありますよ」


「そうは言っても今までいろんなこと知ってたし、

有名な話はしってるんじゃないのかな?」


「まあ確かに、有名な妖怪の話なら知っていることも多いかもしれませんが、

だからと言って今回も知ってるとは限りませんよ」


「だってこの前だって。

代田さん知ってる?

緑箋君、この前茨城にいくって話をしたら、

ダイダラボッチですかってすぐ当てちゃったんだよ。

すごくないですか?」


「そうなんですね。

ダイダラボッチなんて無名の妖怪をよく知ってましたね」


「いやいや、全然無名じゃないですから」


「私は別に文献に出てくるような妖怪じゃありませんから、

知らない人は全く知りませんよ」


「そう言われてしまうと、そうかもしれませんが」


「でしょう?

だから今回も、ここって言っちゃうと多分当てちゃうと思うんだよね」


「大丈夫だと思いますけどね。

大体当てても困ることないでしょう?」


「まあそうなんだけど、

遼香さん言っても大丈夫だと思います?」


「多分十中八九当てられると思うけど、

試してみたいなら試してみたらいいんじゃないか?」


「もー。遼香さんは別のところで楽しんでますね。

でもまあ確かにこのままだと気持ち悪いから、

一つ情報を出します」


朱莉はもう我慢できないようだった。


「今回行く先の一つは、

淡路島です」


緑箋は即答をせず、

一つ間を置いてからゆっくりと話し始めた。

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