第361話 無月と龗

緑箋は部屋に遼香と二人で残された。


「そういえば代田さんはどうなってるんでしょうか」


執務室で一人待っている代田のことを緑箋はすっかり忘れていた。


「代田なら幽玄斎がきてくれているから、

そっちで指導してくれているはずだよ。

こっちも終わったから、ちょうどいいから合流するか。

ちょっと待っててくれ、連絡してみるから」


遼香は端末で連絡をとり始めた。

緑戦は机の上に置いてある無月を見ている。

鞘に収められているのに発光しているように感じる、

不思議な刀である。

スルスルと龗が刀の方へ飛んでいく。

ツンツンと鞘の匂いを嗅ぐようにしている。


「龗も興味あるのか、刀に」


緑箋の言葉に頷くような素振りを見せながら、

徐々に刀の下の方へ進んでいく。

柄のところで止まって、

慎重に鼻を寄せる。

勢い余って鼻が柄に当たってしまうと、

ばちっという音と衝撃波が緑箋と龗を襲う。

龗はびっくりした様子だったが、

そのまま緑箋の方へ飛んできて、結局飽きたのかまた肩で休んだ。

連絡を終えた遼香はびっくりしながらこちらへやってきた。


「今の大きな音はなんだったんだい?」


「龗が刀の柄の部分に当たったんです。

そしたら何やら爆発したかのような感じになったんです」


「よくみると何か青く発光しているような感じに見えるが。

刀身を見てもらってもいいかな?」


「はい、分かりました」


緑箋はすっと刀を鞘から取り出すと、

明らかに青白く発光しているのがわかった。


「これはもしかしたら、水属性になっているのかもしれませんね。

魔法銀は魔力の通りがいいので、

より簡単に武器に属性が纏えるのかもしれません」


普通の刀でも魔法剣というのはできる。

相手の属性に合わせて魔法を纏わせることで、

有利な攻撃ができる。

火属性なら火傷を負わせたり、

氷属性なら傷口から凍らせたり、

そういう使い方はよくあるものである。

しかし今回の無月はそれとはまた感じが違っているように思える。


「水属性なら水っぽいものが刀にまとわりつくのが一般的だが、

今回はそのような感じではないな。

何か通常の魔法剣とはまた違った気がする。

ちょっとその刀のまま、模擬戦をしてもらえるかな」


「わかりました。やってみます」


遼香は数体の敵を出現させた。

緑箋はその敵に向かって刀を振るが、

斬撃は水属性の攻撃のようである。

しかしこれは普通の魔法剣でもみられるものである。


緑箋はそのまま敵に近づいて、

直接刀で斬ってみることにした。

敵を袈裟懸けに斜めに斬る。

敵の体が斜めにずれていくとともに、

その傷口がみるみる水に変わっていく。

傷口から広がるように体の半分ほどが水になって消えていった。

その後も同じように敵に攻撃したが、

しばらく敵の傷口が水に変化していくのが見てとれた。


「遼香さんこれは……」


緑箋は唖然としていた。

遼香も腕を組んでその光景を見ながら何か考えているようだった。

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