第360話 茨木童子の帰還

とりあえず茨木童子が持ち込んだ品物の紹介が終わった。


「いや、茨木童子、素晴らしい品物の数々、

本当に恐れ入った」


「遼香殿にそういってもらえたら、

大江山のみんなも頑張った甲斐があるというものです。

大変喜びます。

こちらこそありがとうございます」


「まあ酒呑童子なんかは当たり前だって言いそうだけれども」


「確かに、酒呑童子様はそう言いかねませんな。

でも酒呑童子様もこちらのことを気にかけておられまして、

特に緑箋殿の話はよく話されております」


「僕の話ですか?」


「そうです。

今回軍に入るというお話、

そして遼香隊に所属されるというお話を聞いて、

緑箋なら大丈夫だと太鼓判を押されておりました。

まるで自分が選ばれたみたいに喜んでおりましたから。

その後、煌輝石の方の研究を進めろとおっしゃられまして、

急いでお持ちした次第であります」


「そんなふうに酒呑童子様がおっしゃられていたとは知りませんでした。

いつもよくしていただいて本当に感謝しています」


「いえいえ、

その何倍もこちらの方が感謝しなければならないと思っておりますから。

武器や防具程度のものではご恩返しできていないと考えております。

武器や防具は作れるものですが、

人と人の絆というのは作れるものではありませんからね」


緑箋だけがそのきっかけを作ったわけではないのだが、

大江山はその中心に緑箋がいたことをよくわかっているのだろう。


「ありがとうございます。

無月。

大切に使わせていただきます」


緑箋は茨木童子にしっかりと感謝を告げた。


その後、細かい疑問点などを聞いたり、

逆に茨木童子が使い心地などを聞いてきたり、

お互いに情報収集をすると、

茨木童子は帰ることになった。


「本日はお時間をいただきまして本当にありがとうございました。

もし今回の品物に対して何かございましたら、

すぐご連絡ください。

また何かあったら新商品をお持ちいたします」


「きっとまたすごいものが見られるのが楽しみだな。

無理せずに、よろしく頼む。

大江山のみんなにもよろしく伝えてくれ」


「はい、ありがとうございます。

みんなも喜びます」


茨木童子はそういって丁寧におじきをすると、

朱莉が帰り道に誘おうとした。

茨木童子を送るために緑箋もついていこうとする。


「緑箋君は遼香さんと訓練してていいよ。

帰りは私だけで大丈夫だから」


「いや……でも……」


そう言いかけた緑箋に向かって朱莉は後ろを指差す。

遼香がぽんぽんと拳を叩いている。

緑箋はすぐに理解した。


「わかりました。

茨木童子さん、ありがとうございました。

お気をつけてお帰りください」


茨木童子は笑顔で緑箋にも丁寧にお辞儀をして部屋を出ていった。

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