第357話 無月でもう一度模擬戦闘

「これは見事ですよ緑箋殿」


茨木童子はあまりの無月の威力に言葉を失っている。


「ほんとすごいですねこの無月」


「いやいや、すごいとかいう問題じゃないでしょ。

私設定さっきのままにしちゃってたから、

魔族みんな上級魔族でしかも体力もりもりのやつだったよね?

それが一撃?

おかしくないですか?」


朱莉は興奮している。


「二撃だったけどな」


遼香は冷静に突っ込む。


「そう言う問題じゃないですよ!

上級を一発で仕留めるだけでもすごいのに、

100体ですよ?100体が一撃、二撃?

で消えちゃったんですよ?

すごすぎませんか?」


朱莉は自分の喋りでさらに興奮している。


「まあそうなんだが、

別に上級魔族とはいつも模擬戦闘しているじゃないか。

今回は回復強化設定だったから、

攻撃はそんなに激しくなかったし」


「いやそうですけど、そうじゃないでしょう?

こんなにすごいのは初めてみましたよ!」


「わかったわかった、わかったから少し落ち着こう。

まだ終わってないんだから。

今度は1体だけ出してくれるかな」


「今100体が二撃で消えたのに?」


しっかり二撃というのは覚えたらしい。


「まあ、いいから、お願いするよ」


そんな二人のやりとりを見ながら、

緑箋は刀の威力のこともそうだが、

実は居合が決まって納刀がうまくいった事の方を喜んでいた。

しかしそれは誰にもわからないように平静を装っていた。


「緑箋君」


遼香はそういうと緑箋の目を見つめた。

緑箋も基本的な遼香の狙いはわかっていたのだが、

あまりにもかっこいい刀を持ってしまって、

自分の中の中二が出てくるのを抑えられなかったのだった。

一度刀を使って成功できたことで、少しだけ冷静を取り戻していた。


「大丈夫です」


「よし、じゃあ始めよう」


その合図で緑箋はまた刀を軽く握って構える。

そして今度は地面を抉りながら敵の前に飛び出して行くとともに、

刀を抜きながら振り上げ、

敵の右手を切断する。

そしてそのまま刀を振り下ろし、左手も切断し、

一度身の前でくるっとした後に納刀する。


腕がなくなっても魔法で回復はできる。

その方法はさまざまで、

切断したものをくっつける、

魔力で再構成する、

体の中から生やす、

など、魔族によって色々得意の方法があるようだ。

ただこれも難しくて、

じゃあ切られた腕の方を回復したら、二人に増えるのかというと、

そういうことでもないようで、

そこには何か複雑な仕組みがあるようだ。

首を切り落としても死なないのだが、

首の方が本体になるかというとそういうわけでもないので、

まだまだわからないことは多い。


腕を切られた魔族だが、そのまま魔法詠唱をしながら、

切られた腕を浮かせて肩に取り付けようとしている。

切断面があまりにも綺麗で

腕が切られたという認識すらできていないような状態だったため、

腕はすぐにくっついた。

普通ならばそのまま使えるようになるはずだが、

今回はくっついただけで、腕は動かないようだった。


「朱莉、今の魔族の腕の回復量はどんな感じかな?」


「さっきと似たような感じですね。

くっついているので1割程度の回復状態ですね。

これでは動かせません。

やっぱりおかしいですね。

普段ならすぐに回復できるような傷のはずです」


遼香は朱莉の報告を聞いて深く頷いた。

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