第356話 無月を抜く

遼香は敵を一体にして上位魔族、

さらに体力の増強と回復魔法の使用率上昇を求めた。

朱莉がさっと設定を変えると模擬戦闘を始める。


「ありがとう朱莉」


そう言いながら遼香はロケットパンチを飛ばしていく。

先ほどは一発で倒れていった魔族だが、

流石の上級魔族はロケットパンチ一発ではよろめきはするが、

一発で退場ということにはならない。

そしてすぐさま回復魔法で傷や怪我を回復してしまう。


「朱莉、今の敵の体力は100だな?」


「そうですね。完全に回復してます」


「やはりそうか……」


遼香は何か実験をするように観察し続けている。

そして徐に敵の目の前に行くと、

眉間、喉、心臓、鳩尾、丹田へと拳を一度に叩き込む。

正中線五弾突きである。

手が2本しかないのにどうやって五発当てているのかが全くわからないし、

緑箋以外には二発の拳が当たった程度にしか見えていなかったであろう。

敵は後ろに吹き飛んで、

よろよろとなんとか立ち上がる。

そしてすぐさま回復魔法を使い始める。


「今の体力はどうだ?」


「残り2割程度で徐々に上がっている様子ですが、

回復魔法の効きが遅すぎますね」


「やはりそうか」


遼香はそういって軽く敵の頭をこづくと、

敵は姿を消してしまった。

あの軽さでものすごい威力である。

というか正中線五段突きの時は体力を残すために本気ではなかったのだろう。

ではなぜ正中線五段突きを使ったのか。

それはかっこいいからに違いない。

そんなことを緑箋が思っていると、

遼香はゆっくりとこちらにやってくる。


「何かわかったんですか?」


朱莉が聞いてくる。


「ああ、でも私が気が付いたことを言う前に、

緑箋君にも同じことをしてもらいたいんだが、

いいかな?」


「確かめたいってことですね?」


「さすが察しがいいな。

お願いできるかな?」


「わかるかわかりませんがわかりました」


「何をいってるのかよくわからないが、お願いするよ」


遼香は少し険しかった顔を綻ばせた。


「じゃあ朱莉、まず100体からお願いする」


「わっかりました!」


地上に50、空中に50体の魔族が並んだ。


「あっ!ちょっと」


緑箋が言いかけるのと被るように、

朱莉が戦闘を開始してしまった。

緑箋は仕方なくそのまま戦うことになった。

遼香は最初からそれに気がついていて笑っている。

緑箋は刀を軽く握り、抜くような構えをして、ふうと一息つく。

そして敵が攻撃をしてきた瞬間、刀を抜く。

真横一文字に真っ白な斬撃が飛んでいく。

緑箋はそのまま軽く飛び上がり、

返す刀でもう一度斬撃を飛ばし、

着地とともに刀を鞘に納める。

この鞘に納めるのがキメどころだなと、

緑箋は刀を持った瞬間から考えていた。

初めてしてはあまりにも上手くいきすぎて、

緑箋は少しだけ感動していた。


ちなみに敵は真っ二つに切られて全滅していたが、

緑箋にとってそれはどうでもよかった。

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