第355話 試し殴り

「よし、じゃあまず魔族と模擬戦闘をして試してみよう。

朱莉、下級魔族から出してみてくれないか」


「わかりました」


朱莉は素早く設定して模擬戦闘用の魔族を100体ほど呼び出す。

地上の敵が50、空中の敵が50体である。


「こんなに一度に出すんですか?」


さすがの茨木童子もあまりの多くの敵の数に驚いている。


「一応これが最初の準備運動みたいなものです。

あくまでも模擬ですからね。決められた行動しかしてきません。

ただ下級なので動きは単調ですが、いつ攻撃してくるかはわからないので、

そこは少しだけ注意が必要です。

的を当てるだけだと敵が動きませんからね。

遼香さんの場合は面白くないからだそうです。

緑箋君の場合はだんだん戦う人数を増やした結果みたいです。

それじゃまず遼香さんから、準備はいいですか?」


「いつでもいいぞ、というか早くしてくれ」


遼香は早く武器を使って戦いたくてたまらないようである。


「わかりました、どうぞ!」


朱莉の合図ともに下級魔族たちが前進してくる。

基本的には自動で攻撃や防御が行われる設定である。

遼香が遠くにいるうちは遠距離で魔法攻撃が主体である。


いつまもならばゆっくりと前に進む遼香だが、

今回は開始した地点で敵の攻撃を待っている。

その様子を見た敵が一斉に魔法を放ってくる。

上級魔族ならば属性魔法を放ってくるものも多いが、

下級魔族は基本的に闇属性のシャドウボールを放ってくる。

それほど速度は出ていないとはいえ、

100体からの魔法攻撃はそれなりの迫力である。

遼香はその魔法を一つ一つ丁寧に拳で跳ね返していく。

よく見てはいないので確実ではないが、

おそらくはなった魔物にそのままその魔法を返しているようである。

しかも帰ってくる速さは倍以上、威力は上がっている。


「なかなかしっくりきているな。

ただやはり魔法調節が難しいな。

気を抜くと無駄な魔力が抜かれて一定しまうよ。

しつけが必要だな」


遼香は敵の魔法攻撃を拳で敵に返すだけで、

敵の数が半分程度に減ってしまっていた。

そして魔法攻撃が弱まった隙に、気合いを入れるように、

拳を握って頭に当て、星砕に一気に魔力を投入した。

すると星砕が虹色に発光した。


「ははは、なかなかいいじゃないか。

少しはじゃじゃ馬が慣れてきたかもしれんな」


遼香が拳を前に素振りをすると、

拳から光の拳が敵へ飛んでいった。


「ロケットパンチ!」


緑箋は思わず前の世界の言葉を叫んでしまった。


「花火か、まさに拳の花火ということだな!

気に入ったよ緑箋君!」


まあ意味は似たようなものである。

遼香は嬉しそうにロケットパンチと言いながら拳を繰り出している。

空中の敵にも的確に当てていく。

むしろ魔法を使うよりも正確性が高いかもしれない。

遼香にぴったりの攻撃である。


グッと貯めてから拳を放つと、

より大きなロケットパンチになり、

着弾すると爆発する。

緑箋にとってはまさに夢の攻撃であった。


遼香は楽しそうに攻撃を続けていると、

あっという間に敵を全滅させてしまった。

最後まで敵を倒し切った遼香は少しだけ考え込んだ。


「朱莉、ちょっと設定を変えてほしい」


遼香は真面目そうにそういった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る