第353話 原材料と効果

「妖刀無月ですか。素晴らしい名前ですね。

この刀に相応しい」


緑箋の中の中二が出てきている。

男の子は幾つになってもこういうのが好きなのである。

遼香をみていると男の子だけではないのかもしれないが。


「お気に召されたのならば嬉しいです」


緑箋は無月を一振りしてみる。

上から打ち下ろした刀の軌道に、

切先が輝く弧を描いている。

それはまるで繊月せんげつのようであった。

無月から月が現れるとは粋である。


「振っているのか、振られているのか、わからない不思議な感覚ですね。

しっかり手に馴染んで、

自分の振りたいように振れます」


それも妖刀たる所以かもしれない。


「ありがとうございます」


緑箋は一度刀を鞘に納める。


「遼香殿の時にお伝えできてなかったことがございますので、

今一度説明させていただきます。

どちらも鋼と魔法銀を混ぜ合わせたものを使用しておりますが、

実を言いますと、そこに緑箋殿と発見いたしました、

煌輝石の方も含有させていただいております。

これを組み合わせるのが今持って難航しておりますが、

その中でなんとか出来上がったのが、この二つの装備となります」


「それはとても貴重なものですね。

遼香さんはともかく、そんな貴重なものを僕がもらってもいいんでしょうか?」


一介の兵士にすぎない緑箋には確かに似合わない装備と言えるかもしれない。


「そんなことはございません。

煌輝石は緑箋殿がいらっしゃらなかったら、

発見はもっと遅かったかもしれませんし、

もしかしたら見つからなかったかもしれません。

今このような試作品が作れるようになったのもみなさんのおかげです」


たまたまでしかないと緑箋は思っていたが、

そのたまたまがまた運命でもあるのだから、

そういうことはあるのだと思うことにした。


「それでしたら、素直に喜んで受け取らせていただきます」


「こちらこそありがとうございます。

それでですね、魔法銀の方の効果と致しましては、

魔法の通りをよくし効果を上げるという効果が見込まれています。

これは従来の装備と同じようなものになっております」


「魔法銀の方は貴重とはいえ各地で確認されているから、

色々なところで開発は進んでいるんだよ。

その技術も交換しあっているから、

大江山にも伝わっているんですよね」


「朱莉様のおっしゃる通りでございます。

その中に今回は煌輝石を配合しようと努力したわけですが、

今の所あまり芳しい成果をあげてはおりません。

その中でできたのがこれになるわけですが、

今お使いになられたように、

魔力を吸い取ってしまうような効果が見られます。

正しその吸い取られるような魔力以上の魔力を注ぎ込むことで、

攻撃力が飛躍的に高まることが確認されています。

ただ魔力を放出しっぱなしになっているような状態ですので、

魔力制御がとても難しいです。

攻撃する前に倒れてしまうということもあり得てしまいます」


「それくらいじゃなくちゃ面白くない。

なあ、緑箋君」


遼香は楽しそうにしているが、

それに関しては緑箋は同意できないかなあという複雑な心境であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る