第351話 遼香の注文

茨木童子を共なって本部へと転送される。

外に出て茨木童子が感嘆の声を上げる。


「これは噂には聞いておりましたが、本当に立派な施設ですね」


「あちらが本部になるんですが、

今日は私どもの鳳凰寮の方でお話を伺わせていただきます」


昨日ついた名前である。

立派な名前をつけておいてよかったなと朱莉は心の中で安堵していた。

緑箋は本部じゃなくて鳳凰寮に行くんだと疑問に思ったが、

その方が話しやすい何かがあるのかなと思った。


3人は鳳凰寮に入る。

入るや否やすぐにたえが現れる。


「遠いところまで、ようこそいらっしゃいました。

お話は伺っております。こちらへどうぞ」


そう言って茨木童子に丁寧に挨拶をする。

どこからみていたのかわからないが、

たえの動きは的確であった。

3人は訓練室に招かれて入っていく。

中にはすでに遼香が待っていた。

遼香は茨木童子に気がつくと立ち上がって握手をした。


「やあよく来たね。

元気そうで何よりだ」


「遼香どのも相変わらずなようですね」


「私はいつも変わらないよ」


そんなたわいもない話をしていると、たえがお茶を運んできてくれた。

ありがとうとみんなが伝えると、

たえは訓練室から外へ出ていった。


机の上には箱が置かれている。

お茶を一口飲んで一息つく。


「では、茨木童子様、ご説明をお願いできますか?」


朱莉が茨木童子に話を促した。


「本日はこちらの箱の中身の件で伺いました。

これは遼香さんから承った案件でもありまして、

一応今回は試作品ということになります」


茨木童子が箱を開けると、

中から箱が出てきた。

まあそれはそうである。


「まず最初はどれから行きましょうか?」


遼香が明らかにそわそわしている。


「わかりました。ではまずこちらの方からご紹介します」


茨木童子が一つ箱を開けると、

中には手袋のようなものが現れた。


「これだよこれ!」


遼香は何も説明を受けないままその手袋をはめてしまった。

手袋というよりは手甲のような拳装備で、

握った打撃面に何か固いものが入っているようである。

すでに装備して子供のように喜んでいる遼香に向かって、

茨木童子は冷静に説明する。


「これは遼香殿から依頼を受けていた装備です。

手甲で明日が、あくまでも打撃武器になるようなものということでしたので、

刃が出たりはしません。

握った打撃面のところには鋼が入っておりまして、

魔法銀を含有させておりますので、

より魔法効果が高まるようになっております。

鋼と手の間には緩衝材を入れておりますので、

拳の怪我を防ぎつつ、

最大限の威力を出せるような効果をもたらすと思います」


遼香は話を聞いているのか聞いていないのかわからないが、

拳を繰り出してその感触を確かめている。


「いやーこれは素晴らしいね。

魔力の通りも良さそうだ。

それでこれには名前があるのかな?」


遼香はもう子供のようにニコニコして質問してくる。

それに対して茨木童子はあくまでも冷静に答える。


「遼香殿に特別に作らせていただいた、この手甲の名は」


砕星さいせいでございますと静かに告げた。

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