第350話 迎えにいった先

「今回は向こうまで迎えに行かないといけないから、

緑箋君もついてきてね」


「わかりましたが、どこへいくんですか?」


「それはお楽しみ」


朱莉はイタズラっぽく笑った。

まあそういう人である。

緑箋はなんとなくもう慣れてしまっているが、

実はここは軍事機密の塊の場所である。

別に存在は秘密にされているわけではないようだが、

場所は秘密のようなので、

簡単に部外者が来れるという場所でもないのだ。

その割には気軽に代田も入って来れているが。

そのあたりは遼香の力というのものあるのだろう。

特別待遇だとか優遇措置だとかいう概念はこの世界にはまだそれほどない。


朱莉とともに転送された場所に出た緑箋は、

よく見慣れた光景に驚いた。


「ここ、大江山ですね」


「へへーそうなんだ」


朱莉は緑箋がびっくりしているので少し嬉しくなっているようだ。


鉱山の入り口には見慣れた顔が揃っていた。

朱莉の顔を見かけると子供たちが駆け寄ってくる。

完全に朱莉は人気者であるが、

そのことを思い出すことを朱莉の脳は拒否しているようだった。

それでも子供たちに歓迎されるのは嬉しいようで、

明るく対応している。


緑箋の前には酒呑童子と茨木童子と大山田がやってきて握手を交わす。


「がははは、よくきたな緑箋。

変わりないなと言いたいところだが、

お主、少し大きくなっておらんか?」


身長は測っていないが、もしかしたら大きくなっているのかもしれない。

緑箋はそんなことを告げる。


「いやそうではない。

明らかに魔力の総量が増えておる。

量というよりも深みというか、密度というか、

相変わらず訓練を続けているようだな」


酒呑童子も流石の実力者である。

一眼見てそう看過した。


「大山田さんも元気そうで何よりです。

みなさんともうまくいっているようですね」


緑箋は子供たちを見ながら話しかける。


「緑箋どののおかげです。

酒呑童子様たちも良くしてくださってます。

子供たちはあんな感じでどこでも元気ですからね」


大山田は朱莉と戯れている子供たちを眩しそうに見ている。

そんな話をしていると朱莉もこちらへ寄って来た。


「すみません酒呑童子さん。

茨木童子さんも、大山田さんも、お変わりないようでよかったです」


みんなは握手をして笑顔で挨拶を交わした。


「本日は茨木童子さんのお話ということで伺っております」


「その通りです。

わざわざお迎えに来ていただいてありがとうございます」


茨木童子は丁寧に挨拶した。


「いえいえ、こちらこそありがとうございます。

すでに荷物の方は検査積みで運ばせていただいております。

そのほかの準備はよろしいでしょうか?」


「はい大丈夫です。よろしくお願いします」


緑箋と朱莉と茨木童子は挨拶をしながら転送装置へ向かう。


「緑箋!驚くなよ!」


酒呑童子は楽しげに声をかけた。

なんだかわからないが楽しそうな酒呑童子の顔を見て、

緑箋も笑顔で手を振って返した。



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