第347話 朱莉の決断

「そんな話聞いてないんですけど!」


朱莉は頭を抱えている。


「まあ、今初めて言ったからね」


遼香はさも当たり前のように衝撃発言をする。


「別に基地内にあるし、

部屋も大量に空いているし、

何に問題ないだろう?」


「大将邸はどうするんですか?」


「まああそこはあそこで住むし、

非常事態になればあっちへちゃんと移動するよ」


「そうは言っても警備の問題もありますし」


「警備は私が実家に帰るときと同様にしてもらったらいいだろう。

まあ必要なら詰処も隣に建てよう」


「そんな簡単にできませんよ」


「いや、できるだろう。

なあ緑箋君?」


「確かに魔法を使えばすぐなんでしょうけど。

岩だったら代田さん作れたりしないですかね?」


「それだな。

その案いただきだ」


「そんな簡単にいきません!」


朱莉がピシャリと場を止めた。


「もー遼香さん、そんなかってを言って、

誰が調整すると思ってるんですか!

私ですよ。

はい、頑張ります」


抗議をするのかと思いきや、

朱莉はあっさりと話をまとめてしまった。

おそらくこういうことは今までにもたくさん経験してきているのだろう。

無駄に話を揉めるよりは話をまとめる方向に全力を尽くした方が早い、

そのことを朱莉はちゃんと理解しているのだ。

有能である。


「いつも申し訳ないな朱莉。

本当に助かってる」


「まあ、それが私の仕事ですから。

多分世界中で私しかできない仕事ですから、仕方ありません」


朱莉は朱莉で遼香の負担を少なく過ごさせることが一番だと理解している。

そのために自分の身を粉にして働くことができる。

そしてそれを喜びに感じているのだ。

遼香はその朱莉に甘えながらも、

自分の最大限の力を発揮することを考えている。

二人の熱い信頼関係が垣間見える瞬間であった。

でも緑箋には絶対にできないことだなあと感心していた。


「ちなみにここは本部と専用回線がつながっているし、

実を言えば最新施設だから、

軍の敷地内にある建物の中で一番安全性が高い建物になっている。

まだ紹介してないけど、地下にも部屋があるからね。

最新設備も整ってるしね。

だから緑箋君も安心していいよ」


「そうだったんですね。

なんか得した気分ですね」


「す……。」


朱莉が小さく呟いた。


「どうした朱莉?

何か言ったか?」


あまりにもわがままがすぎるので朱莉が怒ったのかと思って、

流石の遼香も恐る恐る聞いている。


「住む」


「住む?」


「私もここに住みます!」


「いやいや、朱莉、冷静になろう……な?」


「いやです。もう一人も二人も手続きは一緒ですから、

私もここに住みます。

もういいです。住みます。私もここに住みます。

住みますったら住みます!」


朱莉は壊れた。

何かが朱莉の限界を突破したようだった。

さすがに遼香もそんな朱莉の姿を見るのは初めてだったようでオロオロしている。


「よーしじゃあ遼香さん、部屋を決めましょう!」


オロオロしている遼香の腕を引っ張って、

二人は部屋を見にいった。

扉を出る時に少しだけ助けてという顔をしていた遼香が印象的だった。


元気な朱莉と対照的に、珍しくヘロヘロになった遼香が部屋に戻ってきた。


「私が南の角部屋、遼香さんはその隣になったよ

そういうことだから、緑箋君これからよろしくね」


遼香は隣でぐったりしている。


「それにしてもこれだけ揃ったから、ここの家の名前も決めないといけないね」


ぐったりしていた遼香が少し元気を取り戻して言った。


「それはもう決まっている」


鳳凰寮だ。遼香ははっきりと言い切った。

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