第346話 訓練の解散と

楽しく遊ぶようにみんなで魔法の訓練が終わる。

たえと代田は荷物の整理もあるのでひと足さきに部屋へ戻っていく。

緑箋と遼香と朱莉は食堂で休みながらお茶を飲むことにした。


「なかなか面白い訓練になったね」


遼香は上機嫌である。


「あんな訓練で遼香さん満足したんですか?

もっと激しくないとダメなのかと思ってましたけど」


「おいおい、朱莉。

私のことをなんだと思ってるんだよ。

魔法を楽しく正しく使うってことは大切なことだろう?

それはまた思い出せるなんて最高じゃないか。

魔法が楽しいものだよ。

本来は夢を叶えてくれるものだからね」


「遼香さんがそんなもっともらしいことを言うのは初めて聞きましたよ。

それもきっと緑箋君のおかげかもしれないわね」


「僕のおかげですか?」


「そうだよ。緑箋君と出会った後の遼香さんは全然変わったんだから。

前はもっとすごく怖かったんだよ。

研ぎ澄まされた刃物みたいな感じだったからね。

もちろん今もその厳しさは持ってるんだけど、

今はしっかり鞘に収めている感じがするの。

明るくて楽しくて朗らかで、

多分こっちの方が遼香さんの本来の姿に近いんじゃないかなって、

私は勝手に思ってるんだけどね」


「そうかなあ?

私は前と全く変わってないつもりなんだがなあ」


「もちろん理不尽さは全くありませんでしたけど。

昔はもっとピリピリしてましたからね。

まあそりゃあ、最前線で指揮しているわけですから、

緊張して当たり前です。

今だって状況はそれほど変わってないし、

なんだったら世界では厳しい戦いが行われていたりもするんだけど、

やっぱり最近の遼香さんは全然違いますよ。

余裕があるって感じなのかなあ。

ずっと張り詰めていたらいつか壊れて割れてしまいますから、

今くらい穏やかで余裕があるとのいうのはとてもいいことだと思いますよ。

みんなも遼香さんが笑ってると嬉しいんですからね」


「そうか、心配をかけていたようだな。

申し訳ない。

そんなふうな私をいつもみんなが支えてくれるから、

私もしっかり仕事ができてると感謝してるよ」


「はい、いつでも感謝してください」


朱莉と遼香は朗らかに笑ってお茶を飲んだ。

二人が軍人だと忘れてしまうくらい、

穏やかな空気が流れていた。


「さ、じゃあ明日もあるから、そろそろ部屋に戻ろうか」


遼香の発言に朱莉も答えようとしたが、

その違和感に気づいて、

遼香の顔を二度見した。


「どうした朱莉?」


遼香は不思議そうな顔で朱莉をみた。


「今、遼香さんなんて言いました?」


「え?

そろそろ部屋に戻るって言ったんだが?」


「あのーもしかして部屋ってここのことじゃないですよね?」


「今日からここに住むけど、どうかしたか?」


「ほらー、

もうー

こうなるんだからー」


朱莉の絶叫が夜空に吸い込まれていった。

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