第344話 幸運スキル

幸運スキルというのは実際に厄介である。

魔法の理というのがあるのかどうかわからないが、

魔法に対しての常識というものはある。

それによって魔法の対策を講じていく。

ファイアーボールなら飛んでくる炎の球を如何にして当たらないようにする。

避けるのか、受け止めるのか、吸収するのか、

一定時間かけて飛んでくる火の玉に対処するというのが道理である。

その中で火の玉が大きいの小さいのか、早いのか遅いのかなども、

考慮に入れる必要はあるが、

それでも対処方法は似たようなものである。


火の球がどこから出てくるかというのももちろん重要で、

術者から飛んでくるのであればそれは分かりやすいが、

360度、あらゆる方向から飛んでこられるとこれはこれで難しい。

自分の周りを全て覆う、全方向方の防御魔法を使えば問題はないが、

魔法消費が激しいので、強度と再使用に負担がかかってしまう。


そのその魔法であるならば、

相手の体内に魔法を生成してしまうのが一番効果的になるわけだが、

基本的にはそれはできないことになっている。

魔力の所有権が違うからである。

なので相手の目の前に火球を出すということはできなくもないが、

その場合相手の方がより強力な魔法が使えることになるため、

うまくいかないことが多い。

ということで魔法攻撃を当てるというのは意外に難しい。

それこそ相手の心理を読んだ駆け引きも重要になってくるのだ。


そう言った意味で魔法に対して知識が豊富で対処方法も多彩な遼香に対して、

魔法をいかに当てるのかというのは実際問題とても難しい。

はずなのであるが、

この幸運スキルというのはその魔法の知識では対処できなくなってしまっている。

必中効果がある魔法と言ってもいいだろう。

発動すれば必ず効果が現れるのである。

普段ならば決めるべきところで決める遼香の手が滑るということが起きてしまう。

これにはさすがの遼香も対処できなかった。


このあまりにも強力な幸運スキルではあるが、

このスキルの弱点はいつ発動するかわからないこと、

そして何が起こるのかもわからないということだ。

狙って幸運が発動しないのだから、

使い所が難しい。

使い所どころか、

いつ発動するかもわからないのだから、

再現性がない。

こんなに危なっかしいスキルはない。

ただ発動してしまえば強力な助けになることは間違いない。


たえ自身も自分に幸運スキルがあるということはわかっているし、

それが発動することで喜んでもらえることは嬉しかった。

ただ、先ほどのように戦闘中にもこういう効果があるということを初めて知った。

少しだけ自分の力が怖くなってしまった。


多分遼香はそういうたえの心の動きを敏感に感じ取ったのであろう。

別にたえを戦場に出させて、

幸運スキルを発動させて戦局を有利にするなどということは微塵も考えていない。

単純に面白いすごいスキルだなということと、

貴重なスキルではあるから、

自衛することも重要だということで、

たえも魔法訓練に参加してもらいたいと思ったようだった。

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