第343話 大きさと力と速さと

「いやーそれにしても怒涛の攻撃でしたね。

代田さん、やっぱりすごかったですよ」


朱莉が先程までの代田の動きを見て興奮したように話す。


「ありがとうございます。

でも全て遼香さんには受け止められてしまいましたけどね。

遼香さんは受けに徹してましたから、

本気を出されたらもっと早く終わっていたでしょう」


「受けに回ったのはちょっと攻撃を受けてみたかったというのもあるが、

実際にそういう気迫が伝わってきたからというのもあるんだよ。

なかなか重くて早くて強い攻撃だったな」


遼香はあの攻撃を思い出してニヤニヤしているようだった。

どうやら大好物ではあったらしい。


「もっと大きくなって叩き潰しちゃえとも思ったんですが、

以前に失敗したとも言ってましたよね?」


「そうです。

前はかなり巨大化して戦ったんですけど、

その時は姿を捉えられずにボコボコにされただけでした」


「そういうものなんですね」


「自分の周りに虫が集ってると思ってください。

簡単に視線の外に飛ばれてしまいますよね」


「確かに」


「巨大化した攻撃は質量から見ただけでも強力ですが、

当たらなければ意味がありません。

なので大きさと力を釣り合いをしっかり見なければ、

宝の持ち腐れになってしまいます。

大軍との戦いにおいてはまた違った結果になるかもしれないですけどね」


「力の使い方が大事ってことですか。

奥が深いですね」


朱莉は感心している。


「でもそんな巨大な相手に意気揚々と立ち向かっていける胆力があることが、

そもそも普通じゃないですよ。

デカさっていうのは恐怖でもありますから」


緑箋は自分が巨大化した代田と対峙したところを想像した。


「そんなこと言っても、緑箋君だって立ち向かっていくだろうに。

なあ龗」


遼香は龗を撫でながらニコニコして話す。


「僕は戦ってはいませんよ」


緑箋は天を覆うような青龍のことを思い出して、

あれとは戦えないだろうなあと呟いた。


「ほんと代田さんは見事な魔力操作でした。

あれだけ土属性魔法を自然に扱われると、

かなりの脅威だということが分かりますね。

巨大な魔力を生かしながら、

繊細な魔力操作を行われてしまうと、

太刀打ちできません。

普通は」


緑箋は遼香をみながら話す。

遼香は龗を撫でている。


「ありがとうございます。

でも緑箋さんも私の魔法程度なら防げてしまうのでしょう?」


代田もまた実力者である。

緑箋の力を肌で感じ取っているようだ。


「やってみなければ分かりませんが、

一度戦い方をみられたので、

遼香さんとは違った方法での戦い方の想像はしています」


緑箋はしっかり二人の戦いから学習していた。

魔法に対して真摯に迎えるようになっているのが、

この世界の緑箋の強みだった。


「これから長い付き合いになると思うから、

みんなで切磋琢磨していこう。

今日は代田とたえちゃんも初めてだから、

二人も参加して、

基礎的な魔法から訓練してみようか」


「あの……私なんかお邪魔では……」


たえは相変わらずすまなそうにしている。


「たえちゃん。

今は別に軍事訓練でも勉強でもなんでもないから、

みんなで楽しく魔法を学んでいるんだよ。

だからたえちゃんも一緒に楽しんでいこう。

多分、いつかこれが役に立つ日が来るから。

たえちゃんが魔法のことを深く理解するようになってくれると、

きっと私たちも助けられる場面が来るかもしれないからね。

たえちゃんがやりたかったら、

一緒に訓練してみない?」


珍しく遼香は優しい口調でたえに話しかける。

いろいろな思いはあるのだろうが、

たえと一緒に楽しく過ごしたいというのは遼香の本音だろう。

遼香はそういう優しい人だということを、

緑箋はよく知っている。



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