第339話 たえのこと

「話しにくいことだったら、話さなくてもいいんだけど、

代田さんとたえさんはどうして一緒に暮らしているの?」


朱莉は結構聞きにくいことを直球で質問した。

おそらくみんなが疑問に思っていることを代表してわざわざ聞いてくれたのだ。

こういうところも気が利く人である。

でも半分くらいは自分が聞きたかった気持ちを抑えられなかったのではないかと、

緑箋は思っていた。


「あ、全然大丈夫です。

私はダイダラボッチ様、あっ、代田法師様に拾ってもらったんです」


「拾ってもらった?」


「話せば長くなるんですが……。

私はもともと旅館についていた精霊のようなものだったんです。

旅館に泊まる人のものを隠したりとか、

寝ている時に音を鳴らしたりだとか、

そういった悪戯をしていたんです」


「子供の精霊、もしかしたら座敷わらしとか?」


「あ、そんな風に呼ばれる方もいらっしゃいました。

私を見つけると幸運になるとかいう方もいて、

少しだけ評判になったりして、

宿の方も繁盛していたんです。

私の力もそういう人たちの思いが集まったのか、

徐々に強くなったみたいで、

本当に宿に泊まるといいことが起こるということが起き始めていました」


「なるほど、いいように話が転がっていったんだね」


「そうなんです。

私もそんな旅館が居心地が良くて、

繁盛している旅館のみんなも嬉しそうだったので、

とても楽しく生活していたんです。

ところが、今から50年くらい前でしょうか、

魔族の襲撃がありました」


「確か福島の方の話だったかな。

結構な被害があったと聞いている」


遼香は聞いた話を思い出しているようだった。


「そうです。

人の被害も結構ありましたが、

海沿いだったこともあって、家屋の被害も結構あったんです。

私の旅館は跡形もなくなってしまいました」


「そんなことがあったんですね」


朱莉は気の毒そうな顔をして聞いている。


「あの頃は魔族の活動が活発だったようで、

海岸沿いはいつも魔族の襲撃に怯えているような状態で、

各地で被害が報告されていたそうです」


「あの頃の被害は結構ひどかったようだな。

その後我々の方も対策を練って、

より防衛を強化するようになったはずだ」


「そうだったんですね。

あのあとは徐々に魔族の襲来も減ったようですが、

皆さんのおかげだったんですね」


「それと魔族の周期との兼ね合いもあるのかもしれないな」


「なるほど。

その後ですが、私は旅館についていた精霊のような存在だったので、

その旅館が壊れてしまって途方に暮れてしまいました。

すぐに旅館を直すという話も出ることもなかったようなので、

私は旅館を出て当て所もなく歩きました。

数週間だか、数ヶ月だかわかりませんが、

色々な家を移動しながら歩いて、

たどり着いたのが代田法師様の家だったんです」


「小さな娘っ子がきで、

どうすっぺかと思ったんだが、

家に置いてぐれっつうもんだから、

まあ、それはかまわねえって、

別にうちの部屋は空いてるがら、

好きなとこさ住めっていったんだ」


朱莉は魔法をかけ直した。


「代田法師様のお言葉に甘えて、部屋に住まわせてもらうようになりました。

私はいたずらしかできなかったので、

家事を教えてもらって、

徐々にいろんなお世話をさせてもらえるようになったというわけです」


「じゃあ女中さんというわけではなかったんですね」


「そうです。

いつもいろいろお世話をしてくれていますが、

たえは召使でも女中でもなんでもありません。

同居人です」


緑箋はたえがどこか寂しげな顔をしているなと感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る