第338話 夕食

一応話がまとまって、今日はこれくらいで終わろうということになった。

朱莉は緑箋の家まで来てくれて、

引っ越しを手伝ってくれた。

引っ越しとはいっても、軍の寮に引っ越してきた時の荷物はほぼ片付いておらず、

さらに元々着替えと本くらいしか持っているものはなかったので、

あっという間にものはまとまった。


「また引っ越しすることになってごめんね」


朱莉は謝ったが、家があるだけましである。

龗の様子だけ気になっていたが、

龗もどこでも気にしないようなので、

特に問題はなかった。

さっと掃除をしてさっと新居へ移動した。


部屋は寮の部屋よりも広い感じで、

簡単な風呂に台所も用意してあった。

普通の一人部屋よりも豪華なのではないかと緑箋は思った。


「さっき連絡があったんだけど、

たえさんが食事を作ってくれるらしいんだ。

食堂があるから大丈夫だよっていったんだけど、

何もしないのも悪いし、

いつもやっていたことなのでって。

材料も自分で買えるものは用意するっていってくれて、

もちろんこっちからも支給できるものは支給するんだけどね。

よかったら今日の夕食も一緒に食べないかって言われたんだけど、

緑箋君はどうする?

私はせっかくだから食べていこうかなって思ってるんだけど」


昔の緑箋ならばもちろん断っているところであるが、

もう今の緑箋は違うので、

もちろん一緒に食べたいとお願いした。

朱莉は嬉しそうに連絡を入れると、

後少しでできるので食堂へ来てくださいとのことだった。

緑箋は荷物の整理は後にして(といっても服を出すくらいだが)、

朱莉と二人で食堂へ向かった。

食堂に入ると代田と遼香が楽しそうに話をしていた。


「遼香さん帰ったんじゃないの?」


「ご飯が食べられるって聞いたからね。

せっかく用意されているものを無碍にするのも悪いだろう?」


「お酒は出ませんよ」


「わかってるって」


遼香はちょっとだけ残念そうに朱莉の言葉に頷いた。

4人で話しているうちに食事が出来上がったようだった。

4人も手分けして料理を運ぶ手伝いをした。

お味噌汁にご飯、野菜の煮物に焼き魚と、

あっという間に豪華な夕食が並んだ。


「すごいですね、これ一人で作ったんですか?」


緑箋は配膳の手伝いをしながらたえに聞く。


「こんなものですみません。

有り合わせのもので作ったので」


たえはすまなそうに返事をするが、緑箋は手際の良さに感心した。


「じゃあ食べよう」


遼香は待ちきれない様子でそういうが、

たえが立ったままだったので、座るように促す。


「いいえ、私は……」


たえは少しためらっている。

しかし遼香はキッパリといった。


「ここではたえさんは立派な我々の一員なんだから、

今日から一緒にご飯を食べましょう。

代田もそれでいいよね?」


「もちろんだ。

たえも一緒に食べよう。

ほら、せっかぐの料理が冷めっぺや」


少し魔法の効果が薄れて、

茨城弁が強くなっているが、

なんとなくその感じが周りをほっこりさせてくれた。

たえもこれ以上固持しても迷惑だと思ったらしく、

席についた。


「さあ、早く食べよう!」


いただきますとみんなの声が揃った。

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