第311話 攻撃訓練

「さてでは今度は攻撃魔法の基礎訓練を行なっていきましょう。

基本的には敵との交戦は遠距離中距離で行うことが主流です。

近づいて拘束されでもしたらもう終わりですから。

わざわざ近づいてくる敵というのはほとんどいません。

中には近距離が好きな交戦的な魔族というのもいますが、

まあ稀ではあります。

かくいう私の得意な攻撃は近距離にはなるんですが……」


幽玄斎の目尻が下がって少し悲しそうに見えた気がした。


「ではまず基本のファイアボールを打って攻撃してみましょう」


人型の的が次々に現れるので、その的を撃ち抜いていく。

緑箋は全ての頭を撃ち抜いていった。

的といえどもにとと同じように魔力があるので、

その魔力を軽く追尾する性能も持ち合わせている。

詠唱をすることもなく次々と火球を撃ち続けるも、

一行に的の数は減っていかない。

むしろ増えてきているのではないかと思うほどだった。

しかし緑箋は火球の大きさも速度も上げることなく、

手数を増やす方向で的を破壊していった。

一度に二発から三発へとファイアボールの発射数を増やし続けるが、

その速度に合わせたように無尽蔵に的が現れる。

最終的に一度に出すファイアボールの数は十発になった。

指の数と同じである。

このようなキリのいい数字というのはやはり魔法詠唱時における、

自分の魔法に対しての想像力を強化してくれるので、

とても重要である。

七発打って制御するよりも、

十発打ってそれぞれの指から放たれていることを想像することのほうが、

魔法制御する時には重要だった。


いつ終わるのかわからない人型の的を打ち続けていると、

一時間程度経ったところで、

ようやく的が全てなくなっていた。


「いやーお疲れ様。

いやーすごいよ、これは驚愕の結果です。

普通、初めてこれをやると、三分持たない人が多いんだけど、

一時間もやる人は初めて見ました。

というかベテランでもこれほどの時間こなす人はいないかもしれません」


「いやーそうだったんですね。

流石にきつかったですけど、

後半は慣れてきたのか、自我がなくなって、

無駄がなくなって少し安心感を持って行うことができました」


「そうなんですよ。

自分の限界を超えた先に、

自分に一番あった魔法の使い方というのが出てくると言われています。

要するに無駄な力とか無駄な考えというものが抜けて、

ただ魔法を効率的に出すにはどうしたらいいのかというのが、

勝手に体が教えてくれるんです。

ご存知だとは思いますが、

魔法においては反復練習というのはとても重要で、

いついかなる時でも同じように魔法を使うというのはとても難しいものです。

そこを考えずともできるようになるというのを目的にしてるのですが、

緑箋君はもうできてると言っても過言ではありません。

戦場では敵の数の実態がわからないことが多いので、

いつ戦闘が終わるのかというのはわかりません。

終わりの見えない戦いで自分が魔法を使い続けるというのはとても困難です。

目標がないのにやり続けなければならないというのは、

心を保つのがとても難しいわけですが、

もうここまでできるというのはさすがですね」


「ちなみにこれはどうやったら終わるんでしょうか?」


「基本的には的が増えすぎたら終了です」


「では今のは?」


「単純に時間の上限にきたからですね。

普通はここまでやりません」


幽玄斎の髭が少し動いて笑ったように見えたが、

緑箋はぺたりと腰を落とした。

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