第308話 幽玄斎とお昼

先立って軽い自己紹介はしていたが、

お昼を食べながらみんなのそれぞれの話を聞くことになった。


「さっきも話したけど、

緑箋君はまだ中等生だから、

これから大変なことがたくさんあるかもしれないけど、

私たちもしっかり助けるから安心してね」


朱莉は相変わらず明るく話しかけてくれる。


「ここ数日間ずっと朱莉さんに助けられてますから。

本当にありがとうございます」


「そんなことないよ。

幽玄斎君も聞いてると思うけど、

緑箋君、二人の魔王相手にすごかったんだからね」


「いやいや、本当にすごかったのは朱莉さんで……」


そう言いかけた緑箋を必死に止めて、

朱莉は話題を元に戻そうとした。


「ちょっと朱莉さん、僕もその話を詳しく聞きたいです」


「まあそれはいいから。気にしないで。」


幽玄斎は緑箋に目配せして、あとで聞かせて欲しいという感じの念を送った。


「でも幽玄斎君もすごいんだよ。

私より後輩なんだけど、しっかりしてるし、

魔法もすごいし。

こんなこと言ったらあれだけど、

家柄だけじゃなくて本人の努力がすごいんだよね」


「いやいやかい被りすぎです。

単純に自分が好きなことをやってるだけですから」


「まあそうなのかもしれないけど、

それってなかなかできることじゃないと思うよ。

でも興味がないことは全然知らなかったりするから、

抜けてるとこもあるね」


「そうなんですよ。だから常識が全然ないんですよね。

覚えなきゃいけなかったり、やらなきゃいけなかったりするんですが、

困ってしまいます」


「できたほうがいいのかもしれないけど、

うちはそういう感じの尖った人を連れてくるのが、

遼香さんの好みみたいだかから、

お互いに助け合ってやっていこうね」


「そうなんですね。

昨日のことなんかも………」


緑箋が昨日の話を話そうとすると、朱莉はまた必死にその話を遮る。

今回は普通に昨日の朱莉の準備についての話をしようと思っただけなのだが、

もう朱莉は昨日という言葉に過剰反応するようになってしまっているらしい。


「朱莉さん。すごく気になるんですけど。なんなんですか?」


「なんでもないよ。ね、緑箋君」


朱莉は珍しく緑箋に圧をかけてきた。


「夜食事に行ったらわかるかもしれませんね」


「そうなんですね。そういえば夜はご一緒したことありませんね」


「確かに、一緒にどこかへいく任務もなかったからね」


「あ、そうなんですね。

結構みなさんはバラバラなんですか?」


「私は遼香さんと一緒にいることが多いから、

結構個人の任務とは別なことが多いかもしれないね。

幽玄斎君も別の人と組んでることが多いんじゃない?」


「まあ確かにそうですね。

一応は個人でということは少ないので、

何人かで組んで行動することが多いんですが、

僕が入ってからは大規模な作戦なんかもあまりないようですから、

朱莉さんとはあまりご一緒することは少なかったんでしょう。

今は連絡は端末でできますし、

そもそも僕がこの総本部に来たのも久しぶりですから」


遠隔での会議のようなものはこの世界でも広まっているようだ。


「さて、じゃあお昼からは幽玄斎君と二人で訓練ということでお願いしますね。

私も時間ができたら顔を出すようにするから。

もちろん何かあったらいつでも連絡してきてね」


「ありがとうございます」


緑箋と幽玄斎は声を揃えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る