第307話 新しい師範?

甲高い声で、嵐伊藤幽玄斎あらしいとう ゆうげんさいと男は名乗った。

見た目は剣術の達人のような格好をしているのだが、

緑箋よりも子供、むしろ女性なのかと思わせるような、

高い声をしていたのが印象的だった。


「幽玄斎は武術、剣術の達人だが、

その動きと魔法を混ぜ合わせた素晴らしい動きを得意としている。

剣術というのは魔法での戦闘ではなかなか難しいところもあるし、

近接戦闘という場面は魔法使いにとってはなあってはならない場面で、

そうしないための訓練も行なっているのだが、

まあ魔族には圧倒的な力を持ったものもいるので、

そのあたりの訓練はもちろん力を入れて行なってもらいたいと思う。

そういう意味では幽玄斎は緑箋君の力になってくれると思う。

もちろん、基本的な能力も高いので、

魔法軍としての訓練もじっくり行なってもらいたいと思う。

幽玄斎、よろしく頼むよ」


遼香はそういって緑箋に幽玄斎を紹介してくれた。


「もちろん幽玄斎だけじゃなくて、

私も朱莉もいつでも緑箋君の疑問には答えるし、

時間があれば私も二人の訓練には参加するから、

そのつもりでいてくれると嬉しい」


「遼香さんも今日は忙しいんですからね。

当分は見てるだけになると思いますよ」


すぐにでも模擬戦闘を行いたいと思っている遼香を

朱莉はしっかり釘を刺しておいた。


「わかってるわかってる。

じゃあ私はこれで失礼するよ。

あとはよろしく」


少しだけ不満げな顔をしながら、遼香は部屋を後にした。


「訓練の流れとかはすでに二人に資料で送っておいた通り。

今日は初めは説明から入るから、

一応そこは私が教えるね。

幽玄斎も一緒に見てもらって、

今後の流れとかを確認してもらえるかな」


「はい、わかりました。助かります」


幽玄斎と三人で座学が始まる。

基本的には魔法軍の歴史とか今の状況とかの詳しい説明が行われる。

時折幽玄斎も質問したりして、

基礎的なことというのはなかなか初め説明されたきり、

忘れてしまうことが多い。

朱莉は色々なところで説明する機会も多いのだろう、

とてもわかりやすく説明してくれた。

魔法軍の内情や今の世界の状況、

そして魔族との戦いについても学習していく。

現状の様子は幽玄斎からも説明があり、

二人の講師によって緑箋の座学が進んでいった。


緑箋がこの世界に来てまだ一年ということは、

朱莉も幽玄斎ももちろん知らないのだが、

緑箋が子供の姿ということもあり、

あまりこの世界のことを詳しく知らないことに疑問を持っていないようだった。

それは緑箋にとっては好都合だった。

徐々に日本のこと、世界のこと、この世界の仕組みなんかを理解してきてはいたが、

また魔法軍からの視点を取り込むことで、

違ったように世界が見えてくるのは面白かった。


「じゃあとりあえず午前中はこれくらいにしましょう」


「一緒にお昼を食べてから、

午後は二人で訓練を行なってくれるかな」


「はいわかりました。ありがとうございます」


「よーし、じゃあご飯を食べに行こう」


三人は食堂へと向かった。

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