第305話 初任務の終わり

いつの間にこの魔界の人気歌手となった朱莉は、

みんなに手を振りながら席に戻ってきた。


「すごかったですよ、猫高橋さん!」


「緑箋君、AKARIって呼んで」


なぜか緑箋の耳には朱莉ではなくAKARIと聞こえてきたが、

それだけの力を見せつけられた歌謡祭であった。

AKARIが朱莉に戻った時、

どのような反応を見せるのか緑箋は少し楽しみでもあり、

少し怖くもあった。

遼香はそんな朱莉をみて楽しそうに微笑んでいた。


「それでは今回の宴はここで終了させていただきます。

各自気をつけてお帰りください」


宴が終わったようだった。

朱莉はまだAKARIのままのようだが、

そろそろ三人も帰らなければならない。


とりあえずAKARIを立たせて、魔王たちに挨拶をする。


「今日はとても楽しく、素晴らしい時を過ごせました。

魔界の平和にわれわれも協力せさせていただきます」


遼香の言葉に魔王たちも感謝を述べた。


「我々の方こそ、今日は本当にありがとうございました。

今後は我々も日本魔法軍と協力関係を強めていきたいと思っています。

そして共に日本の、そして世界の平和を目指していきましょう」


「山ン本のいう通り、我々も協力は惜しまない。

何かあったらいつでも言ってくれ。

今後ともよろしく頼む」


そう言ってみんなは固く握手をした。

AKARIだけは握手が上からだったが、

魔王たちも楽しそうにしているようだったので注意はされなかった。


「それではお送りいたします」


司会を務めていた老爺がやってきて、

緑箋たちを送りにやってきてくれた。

魔法の馬車に乗ってまた魔界の扉のところまで送ってもらえた。


「本日は本当にありがとうございました。

私どもも魔王を支え、日本の平和に力を惜しまないことをお約束いたします。

またいつでも遊びに来てください。

我々、この世界の恩人ですから、

いつでも大歓迎いたします」


老爺は龗にも丁寧にお辞儀をして去っていった。


「よし、じゃあ帰ろうか。

朱莉、大丈夫か?」


朱莉になっていた朱莉は口数が少なくなっていた。


「あのー、もしかして私またやらかしてないですよね?」


「ああ、酔いが覚めてきたんだな。

朱莉、何もやらかしてないよ。

むしろすごい盛り上がりだったよ。

なあ、緑箋君」


「はい、あれはもう感動しました。

猫高橋……あっ、AKARIさんは、

もう僕の手の届かないところまで行っちゃったなって、

そのぐらいすごかったですよ」


「今私の頭の中に薄ぼんやりと残ってる光景があるんだけど、

もしかしてこれは夢じゃないのかな?」


「朱莉が何を見てるのかは知らないが、

多分それは夢じゃないよ。現実だ。

最高の1日だったな、朱莉」


「いやー、もうお酒は飲みません!」


山に朱莉の叫びがこだました。


三人の長い一日、

そして緑箋の初任務はこうして無事に最高の結果を残して、幕を閉じた。

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