第302話 楽しい宴

「魔王と言われる我々ではあるが、

このような青龍、神獣を目の当たりにできたことは本当に光栄だ。

原因は今となってはくだらないことと言えるかもしれんが、

まあ終わりよければすべてよしと、

今回は許していただこう」


「さあ、あとは楽しんでまいりましょう。

せっかくの宴でありますから、

さあ、桜風院殿も、猫高橋殿も、盃が空いておりますぞ」


神ン野も山ン本もお酒が入って上機嫌になってきている。

そんなに遼香に飲ませたらまずいのではないかと、

緑箋は少しだけ心配していたが、

流石にこの面々の中で、

普通に酔っ払うわけはない、

と信じることにした。

そして遼香よりも危ないのは朱莉である。

あの大江山の惨劇を忘れることはできない。

実を言えば遼香がお酒を飲みながらも、

ここまで少し冷静を保とうとしているのは、

隣に朱莉がいるからでもあった。

朱莉のことを知らない妖怪たちは、

朱莉の盃が開くたびにお酒を注いでしまうので、

遼香と緑箋はほどほどにほどほどにと納めようとするのだが、

朱莉はそんな二人の心配を全く気にせずに、

グイグイと飲んでしまっている。


「全然大丈夫です。

もう飲みすぎたりしませんから、お二人とも心配しすぎですよ」


そう言いながら盃を飲み干している朱莉を、

遼香と緑箋はなんとか抑えようとしているが、

あまりの飲みっぷりの良さに、観客が周りを囲むほどになっており、

また魔王たちも面白がって盃にお酒を注ぎ続ける。


今日の勝負の間は朱莉はただの付き添いとしているだけのようだったが、

実際は今回の勝負を開催するに当たって、

企画、運営、資料作成、勝負本番の準備、予算管理、

そういったあらゆる面の調整を行い、

今回の勝負が滞りなく終えられたのは、

実は朱莉の力が大変重要だったということは言うまでもない。

影の立役者であり、縁の下の力持ちであった。

もし歴史書に今回のことが記されることがあれば、

表に出て参加しなかった朱莉の記述はないかもしれないが、

裏でこれだけ頑張った朱莉の凄さは筆舌に尽くし難いものがある。


そんな朱莉の頑張りを見るにあたって、

今の灯りが心底ホッとして宴を楽しみたい、

そしてお酒を楽しみたいと言う気持ちは、

緑箋も遼香も痛いほどわかっていた。

なので、もちろん朱莉には十分に楽しんでもらいたいと言う気持ちがあるのだが、

もう少し抑えてほしいというのも本音ではあった。


そんな二人の心配をよそに、

朱莉はどんどんお酒を飲み続けている。

ある一定のところまではそれでもいつもの朱莉の延長線上で、

少し明るく笑い上戸になったかなと言う程度だった。

そんな気持ちのいい酔い方をするので、

周りもどんどんお酒を勧めてしまうのだが、

ある一定の量を超えてしまうと、

とんでもないことになるわけであるが、

それは体感したことがないと想像できないものである。


今回ももちろん朱莉はその一定の量を超えて、

本領を発揮しようとしていた。

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