第301話 魔力のタネ

「それでは結局あの魔力はどこから現れたということになるのかな?」


朱莉の疑問はみんなの疑問である。


「そうですね。そこがこの魔法のタネの一番核となる部分です。

もったいつけているわけではありませんが、

私でもない、

周囲からでもない、

ではどこから集めたのか、

それはここから借りたんです」


緑箋は肩で寝ている龗の頭を撫でた。

龗は気持ちよさそうに寝ている。

少しだけ疲れているのかもしれない。


「その小さな龍があんな魔力を?」


神ン野は信じられないといった顔をしている。


「そうです。

皆さんはご存知かもしれませんが、

龍というのはおそらく長寿です。

おそらくというのは誰も龍の生態を知らないからです。

妖怪の皆さんの中には、

人間には考えられないくらいの長寿の方もおられると思いますが、

それにもまして龍、

そういう神獣というのは長寿でありましょう。

この世界が生まれた時と同じくらいの時を経ている、

そんなものもいるのではないでしょうか。

この龗がいったいどれくらいの長さを生きているのかは分かりません。

もしかしたら出会ったときに生まれたのかもしれませんし、

この小ささでも数百年、数千年の時を生きているのかもしれません。

ただ小さい龍とはいっても龍。

そしておそらく龗は青龍でありましょう」


「青龍!」


周りから驚きの声が上がる。


「まあ龗が本当に青龍かどうかは分かりません。

ただ伝説の神獣である青龍のような竜ではあるのでしょう。

東を守り、春を守り、五行で言えば木、

そんな龍です。

昨今では水に近いものの方が通りがいいような気がしますが、

龍の力を持ってすれば、

人間の考えることなど瑣末なことに過ぎないのかもしれません。

そんな龗の魔力を少しだけ借りただけというのが、

今回のあの光球の正体になります」


「少しだけであの魔力とは、信じられませんな」


山ン本は少しあきれた顔をしている。


「あれは龗に取っては遊びに過ぎません。

ですので危険性は全くないし、

龗が最後に光球を食べたように見えたと思いますが、

あれもいつものことです。

自分の魔力を出して取り込んだというだけなのでしょう。

私はいつも龗と遊んでいますので、

あれは日常の出来事なのです。

おそらく私があれを全く恐れないことと、

私があれに対して余計なこと、

要するに悪用するとか、自分のために使おうとか、

そういうことがなかったので、

今のようにあの魔力を出して遊んでくれているんだと思います。

ですので、今回もただ龗は遊んでいるだけで、

私もその遊びに付き合っただけということになります」


「なるほど、そういうことだったのか。

まあ伝説の神獣、青龍の遊びを見れたというのは、

かなり貴重だったかもしれないな」


「神ン野のいう通りかもしれないですね。

青龍の前では我々の存在などあまりにも小さい存在にすぎません。

瑣末な争い事は無益であるということなのでしょう。

そう考えると、とてもいい体験をさせてもらいました」


二人の魔王はとても素晴らしいものが見れたと、

今は楽しそうに先ほどのことを振り返り始めていた。


龗がただ本当に緑箋と遊んでいただけなのか、

こういう結果をわかっていたのか、それはわからなかった。

ただ龗が緑箋の肩で気持ちよさそうに寝ていることだけは確かだった。

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