第300話 奇術のタネ

「奇術のタネを話してしまうのは無粋ではございますが、

今回、こうして平和が訪れたというこのよき日ですので、

特別にお話しさせていただきたいと思います」


緑箋は丁寧にお辞儀をして話し始めた。


「単純に申しますと、あれは私の魔力ではございません。

正確にいえばほぼ私の魔力ではないという言い方の方が正しいでしょう」


「あの光球は緑箋君の魔法じゃなかったってこと?」


朱莉は驚いて聞き返した。


「正確にいうと、初めの光球は私の魔法です。

しかしその後の光球の魔力がどんどん高まっていった現象については、

あれは私の魔力ではありません。

まあここでみなさまにご説明するにはあまりにも失礼な話ではありますが、

簡単にいうと魔法を使用するときに、

自分の魔力と周囲の魔力を組み合わせて魔法を使うということが多いと思います。

それこそ、大気、海に山に森、

そういった場面に合わせた魔力というのは強力になりますし、

より想像しやすく扱いやすくなります。

今回もちろん私も光球を出す魔法を使ったわけですが、

あの暗闇の中、光をより明るくするというのはなかなかに難しいものがあります。

そもそもみなさまは感じとられているように、

私の魔法力というのは一般平均並みの魔法力しかありません。

隠しているとかいうこともなく、

基本的な能力はそんなものです」


「でもあの魔法力は我々が今まで見たことがないほどのものでした。

あれだもし発動されていたらと思うと、

想像するだけで恐ろしいほどでしたよ?」


山ン本はあの光景を思い出しながら疑問を口にした。


「確かにそうです。

あの光球を攻撃に使用するならば、

確かに甚大な被害を与えることができるかもしれません。

しかしあの光球はただの光球であり、

もとから攻撃に使えるような危険性は全くありません」


「ただ光ってるだけだったと?」


神ン野も驚いている。


「その通りです。

あの光球を見ただけで攻撃された時のことを考えてしまうというのは、

正しい反応ではありますが、

その錯覚を逆手に取ったわけです。

攻撃に使わないわけですから、ただ輝かせればいいだけだったのです。

もちろんあれだけ輝かせるだけでも莫大な魔力が必要になります。

あの光球は私だけでは生み出すことは不可能です」


「その辺が上手かったよな。

私はあんなことは思いつけなかったよ」


遼香は感心している。

遼香にはこんな考えが必要がないことを緑箋はよくわかっている。


「ですので、はったりです。

膨大な魔力を使って皆さんを騙したということに過ぎません。

あれを輝かせることではなく攻撃に使うとしたら、

あの魔力の制御はより難しくなりますから、

なかなか思うようにいかなかったと思います。

もっと早くに爆発なり消滅なりしていたでしょう」


「なるほど、それに私たちは一本とられたということですね」


山ン本はあの光景を思い出している。


「申し訳ありませんがそういうことになります」

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