第297話 最終結果

ゆっくりとコロッセオがまた明るくなっていく。

魔王たちは呆気に取られて席にへたり込んでいる。

緑箋はやっと終わったかというように立ち尽くしている。

とんでもない魔力を秘めていた光球を飲み込んだ龗は、

またふわふわと飛んで緑箋の腕に巻きついた。

音のない会場を目覚めさせるために、

司会がようやく口を開いた。


「いや、あの……何と言いますか、

まあとにかく、最終試技はこれで終了となりました。

素晴らしいというか、恐ろしいというか、

とんでもないものを今私たちは体験したような気がしています」


会場の全ての人がその気持ちを共有していた。

緑箋はゆっくりと歩いて席に戻った。


「緑箋君、大丈夫?」


心配そうに話しかける猫高橋。


「あ、全然大丈夫です。

それよりも最初の緊張が酷くて、

今は終わってホッとしてます」


緑箋は少しだけ疲労のあとは見えるが、

落ち着いているようだった。

別にほうけているわけでもなかった。


「ではここで恐怖度の確認と行きたいところではありますが、

装置が故障してしまったようで、得点の確認が………」


そう言いかけている司会者を制すように山ン本が話し始める。


「もう得点は関係ありません。

我々は降参したんです。

勝負は我々の負けです」


「そうだな。

もう何も細かいことは言わん。

我々は降参した。

だから我々二人の負けだ。

この勝負は我々二人の負けだ」


神ン野も同調する。


「ええ……ということはどういうことになるのでしょうか?

勝ち負けを決めるということではなく、

もう両方とも負けを認めたということで……」


「そうです。

ですので今回の我々の騒動に関しましては、

今後一切何も言わない、

もう二度と繰り返さないことを誓います」


「私も同様だ。

二度と二人で争わないということを誓う。

今回の騒動以外でもだ。

二人の余計な争いで火種を生むことは今後ないと思ってもらいたい」


山ン本と神ン野の争いはここで一旦終了ということになった。


「わかりました。

お二人の今の発言をもちまして、

今回の勝負は二人の魔王様の負けという結果となりました!」


会場からは拍手が巻き起こった。

少ない関係者ではあるがそれが証人である。

二人の魔王の歴史的な和解の日という素晴らしい結果に終わった。


気の抜けたような緑箋に向かって二人が声をかける。


「緑箋君よくやったね。

これでもう大丈夫だよ」


「緑箋君。まさかこんな結果になるとは思ってもみなかったよ。

やっぱり緑箋君は面白いな」


「いやもう無我夢中でしたよ。

僕はあの時の記憶がほとんどありません。

でも本当によかったです」


緑箋はこの地下空間にきてずっと思っていた。

飛んでいる時はほとんど見ていなかったとはいえ、

この地下空間も地上と変わらないような暮らしがあり、

素晴らしい光景が広がっていた。

その景色が炎に包まれるようなことがあってはならない、

何としても二人の魔王を止めなければと思っていた。

遼香はそこのところは結構楽観的で、

即戦争になるという確率自体は少なかったのかもしれないが、

しかし何があるかわからない。

その争いを何とか回避できたこと、

その結果になってくれたことが、

緑箋は本当に嬉しかった。


緑箋の選んだ恐怖を与える勝負で、

最終的にみんなの顔に笑顔がはじけていたことがとても眩しかった。

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