第296話 最終試技

「それでは最終試技に移りたいと思います。

準備の方はよろしいでしょうか?」


緑箋はその音に反応して静かに頷いた。

おそらく言葉の意味は脳まで届いていなかった。


「準備が整ったようです。

それでは今回の最終試技になります。

よろしくお願いします!」


司会の言葉と同時にまた暗闇が訪れる。

心臓の音さえ聞こえそうな静かな闇の中、

緑箋の目の前が明るくなる。

小さな光球が緑箋を、そしてその周りを照らす。

そして魔王と緑箋の間に、

龗がふわふわと飛んでいく。


その間も光球は大きさは変わらずに、光量だけを上げていく。

緑箋の周りだけを明るくしていただけの光球に周囲の魔力が吸い込まれるように、

その魔力と光量を増していく。

漆黒の闇に包まれていたコロッセオが、

緑箋の前のたった一つの光球によって、

まるで太陽の元のような明るさに、

いやもうすでに太陽以上の明るさになっている。

もう目を開けて光球をみていられないほどの明るさになり、

その光球の魔力はすでに暴走し始めているかのように、

周囲の魔力を全て吸い込み始めていた。


流石の魔王たちもこの光球の魔力の高さに驚き始めていた。

もうすでに目の前の光球は誰にも制御できないほど、

信じらない魔力を秘めていることが明らかであり、

魔法攻撃を防御するはずの壁はもう役に立たないことが容易に想像できてしまい、

魔王たちを逃がさないための檻になっているだけであった。


「ちょっと、遼香さん、あれ、まずいんじゃないですか?」


「うーん、確かにやばいかもしれないな。

あれは、私でももう止められないかもしれないぞ」


猫高橋も遼香も緑箋がこの後どうするのかを知らない。

もしこのままあの光球が爆発でもしたら、

この一帯どころか日本が全て飲み込まれてしまうかもしれない。

そう思わせるほどの魔力を秘めた光球は、

まだその勢いを止めることなく輝きを増し続けた。


魔王たちも実力者である。

あの光球の威力を肌で感じ取っている。

すでに人地を超えた力といっても過言ではないほど、

あの光球が魔力を秘めていることがわかっている。

このままここに座っているだけではもう危険である。


魔王は二人立ち上がって、緑箋に話しかけてきた。

音声はすでに回復しているようだった。


「わかったわかった、もうわかった。

お主の力はわかった。

このままでは我々全員が危険だ。

もう終わりにしよう」


神ン野の問いかけに対して山ン本も応じる。


「我々の争いを止めたいという気持ちはわかりました。

もう我々の負けです。

あなたの必死さは伝わりましたから、

ここでやめにしましょう」


二人の声が届いているのかいないのか、

緑箋はそのまま集中し続け、

光球はさらに輝きを増し続ける。

もうすでに当たりの色は失われて、

目を閉じても闇はどこにもないような状態だった。


このままでは埒が開かないと思った神ン野と山ン本は同時にいった。


「降参します!」


「降参だ!」


その言葉を聞いた緑箋は光球をゆっくりと前に押し出した。

光球はゆっくりと魔王たちに近づいていく。

もう降参だってという魔王たちが後退りしていく中、

その光球の正面から龗がパクリと光球を食べてしまった。

あたりはまた闇に包まれた。

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