第294話 母は強し

魔王と母親たちは、まだ会話が止まらないようだった。

久しぶりに会ったらしく、

会話の花が咲いているようだった。

最初はびっくりしていた魔王たちも、

今は笑顔で母親と話している。


緑箋は、そもそも魔王に母親がいるのかというところも疑問だったし、

母親と魔王の関係がどのようなものなのかも見当もつかなかった。

前の世界で言えば、

魔王は神から作り出されたものであり、

神に反旗を翻すものでもある。

言い方がいいのかはわからないが、

神と同様の存在が魔王という感じがするが、

この二人の山ン本と神ン野という二人の魔王は、

どちらかといえば人間臭い魔王であり、

そんなところがどこか憎めないというところでもあるのだろう。

何度も言うが、

前の世界で魔王がやったこと、しかも山ン本がやったことのみで、

神ン野に関しては名前しか出てきていないのだが、

やったことと言えば、

少年を手下の妖怪を使って驚かせようとしたと言うことだけである。

その驚かせ方も基本的には生首やら妖怪が出てきたりするだけである。

もちろん本当にそんなことをされたら恐ろしいことこの上ないのだが、

命に関わることはそんなになく、

いってみればドッキリ番組の仕掛け程度のことなので、

可愛いものである。


妖怪たちをまとめている魔王というように言われているし、

実際に対面してみるとその魔力はとんでもないものを感じているので、

魔王と呼ばれるのは伊達ではないのだろうが、

今母親と歓談している魔王を見ていると、

やっぱりどこか可愛げを感じてしまうのだ。


そんなことを考えながら、

一人恐怖から逃れたいと思っている緑箋の気持ちを汲んだのか、

司会が進行し始める。


「それでお母様方も名残惜しいとは思いますが、

お話はまた後で行なっていただきたいと思います」


そう言われると母親たちは係のものに誘導されて、

緑箋たちの方へやってきた。


「今日はバカ息子たちのためにありがとうございます」


二人の母親が三人にも挨拶をしてくれる。


「ご丁寧にありがとうございます」


遼香たちも立ち上がって挨拶をすると、

また雑談が始まりそうになる。

魔王の母親といえども、

母親たちの行動はどこも変わらないようである。


流石にこれ以上時間を伸ばすわけにもいかないので、

係のものに案内されて緑箋たちから少し離れたところに座った。

残りの様子、もう緑箋の試技だけではあるが、

それを見届けていくようである。


がんばれーなどと大きな声で母親たちが声援を送っている。

先ほどまでは張り詰めていた緊張の糸は、

もう完全になくなっていた。

どこか子供の発表会を見ているような気持ちになってきていた。


自分の母親の行動だと考えたら、

もう赤面してしまって、

これからどうしたらいいのかわからなくなるだろうが、

他人の母親の行動であれば、

少し微笑ましく見えているので、

緑箋はこの空気感で少しだけ落ち着くことができた。


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