第293話 第三試技

「さあ、ということでお二人の感想もお聞きいただきました。

ではこれから後半戦に入りたいと思います。

桜風院様、準備の方お願いいたします」


遼香は笑顔で緑箋と猫高橋の方を向いてから、

前に進んで行った。

遼香はゆっくりと魔王たちの前へ進み、

特に何かを準備したということもなく、

そのままスッと立ち止まった。


「さあ、では準備が整ったようです。

それでは第三子義、お願いします」


暗転することもなく、遼香は二人の前に立ち続ける。

ゆっくりと右手を上に上げて、

そのままパチリと指を鳴らす。

すると上から二人の巨大な人が、

魔王たちの前にそれぞれ着地した。

そしてその落ちてきた二人が一斉に声をあげた。


「コラーーー!

ちゃんとやってるのかーー!!!!」


そう言った後別々に何かを大声で話し始めた。

この前部下に対して何かを言ったとか、

自分だけいい目をして部下を掘って置いたとか、

城下町に暮らす人に対してもっと目をかけろだとか、

何やら小言のようなものを浴びせられている。


二人が落ちてきた瞬間、

二人の魔王はそれはそれで今まで見たことのないような驚いた表情をしており、

二人が叫び出し始めた時は、

背中を席に突きつけるように、

後ろへ後退りした感じに見えた。

あれだけ魔王も恐怖を感じているのだなとなぜか安心するほどだった。


落ちてきた二人の話は続いているようだが、

とりあえず勝負は終わったようだった。


「今登場していただいたのは、

なんと魔王様たちのお母様でございます」


緑箋も猫高橋もなるほどと納得した。

魔王の母ということで、

魔王たちも母親には刃が立たないということなのだろう。

確かに見た目からして魔王よりも威厳のあるような力強さも感じられる。

その魔力も相当なものであるし、

母は強しということなのだろう。


魔王たちを囲んでいた防御壁が一旦なくなると、

魔王と母は熱い抱擁を交わした。

先ほどは罵詈雑言のような言葉を発せられていたようだったが、

今は双方からお互いの体の心配を伝えているようであった。

いつまで立っても子は子なのだ。

魔王と言ってもそうだということに、緑箋は少し驚いていた。

魔王にも愛がある、

それならばきっと緑箋よりも人間らしいのではないかと思っていた。

元の世界でも愛を感じることがなかったが、

この世界にはもう親の存在すらなくなったので、

あのような親子の愛を見せられると、

少しだけ泣けてきてしまった。

見た目は子供ではあるが、

年には勝てないということだろう。


「えー魔王様たちのお話は続いていますが、

ここで今回の結果を表示したいと思います。

一旦魔王様たちには防御壁の中へ入っていただきます」


ということで魔王と母親は一緒に防御壁の中に入った状態で、

今回の恐怖度が発表される。


山ン本、九十二点、

神ン野、九十四点、

という結果になった。

これは流石に素晴らしい結果になった。


「遼香さんやりましたね。」


猫高橋も鼻高々である。


「まあ、私も少しだけ本気を出してみたんだよ」


遼香も上機嫌である。

結果もそうだが、

魔王の母親を引っ張り出してきたところがやっぱり遼香のすごいところである。

そしてそんな凄さを見せつけられて、

今現在、緑箋はこの会場でただ一人だけ、

恐怖度百点となっていた。

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