第287話 試技の順番

猫高橋は緑箋の方を見つめて、少し間をとった。


「失礼いたしました。

ではこれから試技の順番を決めていきたいと思います」


猫高橋は四枚封筒を机に並べた。


「この四枚の中の順番で試技を行っていきます。

封筒の上にはいろはにという文字が書かれているのがわかると思います。

まず最初はどの封筒を選ぶのかを一斉に叫んでもらいます。

被った場合は次の段階へ進みますが、

一人だけであればその封筒を取得することになります。

ではお考えください」


猫高橋は少し息をついて、四人を見回す。


「よろしいでしょうか?」


猫高橋の呼びかけに四人とも大きく頷いた。


「それではセーノの後に、選んだ封筒の文字を言ってください。

では参ります。

セーノ!」


いろはに!と見事にバラバラに文字が叫ばれた。


「では確認いたします。

山ン本様が『い』。

神ン野様が『に』。

桜風院が『ろ』。

薬鈴木が『は』ということになりました。

綺麗に分かれましたね。

ではこちらの封筒をお開けください」


猫高橋が選んだ封筒をそれぞれに配ると、

四人は封筒の中身を取り出して机に置いた。


「ということで決定いたしました。

神ン野様 、山ン本様 、桜風院、薬鈴木の順番で行うことになりました」


緑箋はやはり一番最後になってしまった。

こういう時に最悪の結果を出すのが緑箋の運命かもしれない。

恐怖対決ですでに出題者が恐怖に慄く結果となったが、

それはそれで仕方がない。

今更順番を変えるなどということをしてしまっては、

ここまで勝負を成立させようとしてきた全ての努力が水の泡になってしまう。

とはいえ自分の最後の最後の試技によって、

この努力が水の泡になる確率が大きく高まってしまったような感じは拭えなかった。


「ではそれぞれ準備がありますので、

開始時刻まで控え室の方でお待ちください。

開始時刻になりましたら、

コロッセオの中で勝負を開始させていただきますので、

よろしくお願いします」


「どんなもので驚かせてくれるのか楽しみだ」


「期待しておりますよ、お二人とも」


そう言って魔王は部屋を後にした。

魔王が出ていった後、

緑箋は大きくため息をついた。


「緑箋君どうしたのいきなりあんなに驚いてたみたいだけど」


「自分の順番が最初だと思い込んでいたんです。

まさかこんなことになるとは……」


猫高橋の問いかけに答えながら、緑箋はカタカタと震え始めていた。


「そうか、だから緑箋君あんなに自信満々だったのね。

珍しいと思ったんだ」


「まあ緑箋君。今考えていることは多分大丈夫だと思うから、

そのまま思いっきりやったらいい」


遼香は多分緑箋が何をするかは全くわかっていないが、

相変わらず自信満々で緑箋を支えてくれていた。

少しだけ、少しだけだが、緑箋は気が楽になった。


「緑箋君に回る前に、私が二人の魔王を恐怖のどん底に落とし込んでやるから、

大船に乗った気持ちで待っていたらいいよ」


確かに緑箋の前で大方の予想が決まる可能性もなきにしもあらずである。

それを祈りつつ、

緑箋はもうこの大きな流れに身を任せるしかないと、

覚悟を決めようにも決められずに震えていた。

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