第285話 勝負の前の控え室

三人はコロッセオの中の控え室のような場所に案内された。

老爺が三人に向かって挨拶をする。


「改めまして、本日はこのような遠くの地までご足労いただきまして、

本当にありがとうございます。

そして二人の魔王の勝負につきましても、

ご尽力いただきましたこと、

そしてこうして開催まで辿り着きましたこと、

二人の魔王に変わりまして、感謝申し上げます」


少年と老爺は深々と頭を下げた。


「この後、二人の魔王と対面していただきまして、

勝負の詳しい内容についてご案内とご説明をさせていただいて、

その内容についてご確認していただければと思います。

その後は桜風院様と薬鈴木様はご準備もおありでしょうから、

時間をとりました後、

改めてコロッセオ内に集まっていただきまして、

勝負を開始いたしたいと思います。

また準備に対して人手や必要な道具や材料など、

何かありましたら、何なりとご申し付けください」


「わかりました。

その時はよろしくお願いします」


三人も丁寧に挨拶をすると、一旦案内人は部屋を出ていった。


「さてそろそろ本当に始まっていくけど、

二人とも準備は大丈夫なの?」


猫高橋の問いに遼香は大きく頷いた。

実は遼香はずっと箱を抱えてここまできていたのだが、

緑箋も猫高橋もそれについては触れてこなかった。

聞いてはいけないものが入っているような気がしていたからだった。


「じゃあ遼香さんはもう準備万端なんですね?」


「抜かりはない」


遼香はもう今か今かと勝負が始まるのを待ちきれないようだった。


「それならいいんですけど。

それに対して緑箋君は何も持ってきてないけど、

これから準備することがあるの?」


緑箋は大きく首を振った。


「猫高橋さん。僕も準備万端です」


緑箋は珍しく堂々としていた。


「こんなこと言ったらあれだけど、

緑箋君ってこんなに堂々としてたっけ?」


「大丈夫です。

おそらく遼香さんと被ることもないと思いますし、

僕が失敗したところで、

遼香さんがしっかり後を守ってくださると思うので、

心配はしていません」


「そうなんだ、それならいいんだけど……。

遼香さんも緑箋君のはまだ知らないんですよね?」


「そりゃそうだ。

ネタがわかってしまったら面白くないだろう?」


「いや、遼香さんのために用意されたものじゃないんですけども……」


猫高橋の常識的な問いに対して遼香は不思議な顔をして答えている。


「はい、そうでしたね。

やるからには遼香さんも楽しむってことですよね」


遼香は大きく頷いた。

すでに危急存亡の危機が目の前に迫っているという緊迫感は全くなかった。

なんとなくだが、もうこういう勝負を行うというのが決定した時点で、

魔王たちも何やら浮き足立ってきているような気配があり、

もうこの勝負を楽しもうとしているような気がしてきていた。

つまりこの勝負の勝敗がどうこうというよりも、

この勝負を受け入れさせた時点で、

すでに遼香の勝ちという結果が出ていたのかもしれない。


そんな猫高橋の考察を知ってか知らずか、

遼香は楽しそうに箱を抱えていた。

緊張感あふれる時間前の様子のはずが、

どこか和やかな雰囲気に包まれているのを、

猫高橋だけが不思議に思っていた。

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