第284話 空中散歩

三人は再び魔界の門の前にやってきた。

門の前にはこの前の案内人の少年と老爺が二人揃って待っていた。


「お待ちしておりました。」


「私たちがご案内いたします」


二人の案内人が丁寧に挨拶してくれた。


「本日はよろしくお願いいたします」


遼香も二人に丁寧に挨拶をした。

魔界の門が開くと中にはまた馬車が用意されていた。


「ではこちらの馬車でご案内いたしますので、

お乗りください」


老爺が扉を開けて三人を入れてくれた。


「本日は山ン本、神ン野双方の中立地で勝負を行わせていただきますので、

そちらまで私どもがご案内いたします」


勝負となればどちらかが有利になるような場所にはならないだろう。

この辺りはしっかりと決めてくれていたようだった。

馬車はゆっくりと走り出すとともに、

ゆっくりと空に浮かび始めていた。

緑箋は前の時のことを思い出して、

馬車に乗り込んだ時からすでに自分の膝しか見ていない。


「こんなにゆったり飛んでいるだけなのに、

緑箋君はほんとに苦手なんだね。

緑箋君にも苦手なことがあってホッとするね」


猫高橋は緑箋の緊張感をよそに、

ふわふわと飛んでいる馬車を楽しんでいる。


「こんなことでもなければ緑箋君は完全無欠人間になってしまうからな。

人間味があっていいじゃあないか」


遼香もどことなく嬉しそうである。


「でも模擬戦闘中に吹き飛んだりすることもあるのに、

それはあんまり堪えた様子ないけど、

あれは平気なの?」


「全然平気じゃありません。

一瞬気絶しそうになってることは何度もありますよ。

でも気絶した瞬間に攻撃を喰らったら終わりなので、

なんとか歯を食いしばって耐えているんです」


緑箋は膝下だけを見ることに集中しながら、

ゆっくりと一言一言を絞り出した。

今馬車で空を飛んでいる状態で、

さらに吹き飛んだ時のことを思い出してしまうと、

毛穴という毛穴がゾワゾワする感覚に襲われてしまう。

緑箋は大きく深呼吸してなんとか自分の気持ちを保ち続けていた。


「だが実際にそれができるところが緑箋君のすごいところでもあるんだよ。

自分の感情を操って沈めるなんてことはなかなかできることじゃない。

根源的なものを克服するってのは尋常なことじゃないよ」


「それができていないから、今こんなふうになっているのではないでしょうか」


遼香が褒めてくれている言葉に対して、

緑箋はとにかく今の気持ちを伝えることで精一杯だった。


「緑箋君は見れないだろうが、

今日の会場が見えてきたよ」


遼香が指を刺した先には、

円形の巨大な闘技場のようなものがあった。

中には観客席のようなものはあり、

真ん中の舞台を囲むようにして席が並んでいるが、

そこには誰もいないようだった。

そんな疑問を持っていることを察知するように、

少年が解説してくれた。


「あちらが今、桜風院様がおっしゃった通り、

今回の勝負地として建設されました、

コロッセオでございます。

本日は関係者のみで行われますので、

観客は誰もおりません」


そう説明されながら、

馬車はそのままコロッセオの中まで飛んでいき、

三人を無事に運んで行った。

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